旅ときのう/21日目/モンゴル
生の羊の心臓を食べた。
さっきまで目の前で生きていた羊が殺されて、その心臓が今私の口の中にある。例えば東京やニューヨークでの生活の中では残酷とさえ言われてしまう状況なのかもしれないが、その時あの場所で起きた出来事は不思議とすんなりうけいれられた。
モンゴルの草原のど真ん中で、地平線と雲の影にぐるりとかこまれた広い場所。大自然の空と地面の真ん中に佇んで、目の前の出来事を直視する。
随分前の記憶なので当時の感情は曖昧だ。もしかして怖い気持ちや、可哀想、という身勝手な感情も含まれていたかもしれない。 モンゴル人によると、殺したては臭みが全くないらしい。そして殺した直後に食べる機会は大変貴重だ、とも。
一つ確かにおぼえている心臓の味は、何故か甘く、そしてあたたかかった。