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うつのおかあさん-29(2) けえかほうこく

前編はこちら
うつのおかあさん-29 経過報告|猫田 (note.com)

 猫田は痛む心臓と紹介状を持って、単身車で大病院へ向かっていた!


まずは検査


 服は勝負服(注射こわいTシャツ)を着ている。きっと山ほどの検査をするのだろうと、しっかり着てきた。ちなみにこのTシャツはバセドウ病の診断が出たときに買った。定期的な採血が必要な人生になったら買おう、と思っていたらそれがだいぶ早くやってきたので諦めて買った。着ていくと「今日は採血されに来たんだな」と分かってもらえるのでとても気に入っている。

 40分ほどかけて病院へ着いた。すでにだいぶ疲れていた。低速移動、ずっと息切れ。
 窓口で紹介状を出す。受け取った事務員さん、
「循環器内科ですね。付き添いの方はいらっしゃいますか?」
「いません」
「おひとりですか?」
「はい」
「少しお待ちくださいね」
 待っていると現れたのは、車椅子であった。
「苦しくなってフラフラしてしまうと怖いので、今日はこちらで移動します。看護師が押しますので座ってお待ちくださいね」
 ごめんなさい。本当にごめんなさい。
 周りを見回してみたけれど、足を怪我したらしい子供と高齢者の方々しか車椅子じゃなかったです。なんならみんな付き添いの家族が押していました。お手数をお掛けして大変申し訳ございません、という顔をここから1時間以上し続けることになる。
 ただこれだけ息切れしてしまい、胸の痛くなる回数も多い状態では、車椅子は物凄くありがたかったです。

※ひとりで行くとこうなるらしいので、これを読んだ方々は是非付き添いの方と受診してください。

 看護師さんに車椅子を押されて、長い検査の旅が始った。
 以下、覚えているだけ全部。
・採血
・検尿
・胸部レントゲン
・心電図
・心エコー
・動脈硬化検査
 最初こそ「また来るかもしれないから検査室覚えなきゃ!」と頑張っていたが途中から多すぎて、遠いのに看護師さんの押す車椅子が速すぎて、覚えるのは諦めた。
 全ての検査を終えて、ここでやっと診察待ちの状態に入る。とはいえ血液検査の結果が出るには1時間かかるので、結果が出次第。
 各所でTシャツをいじってもらったり、子供にするように採血してもらって優しかった。

 実は検査の合間に夫に電話をした。娘が下校して帰宅する時間に帰れないことが確定したからだ。大病院に行ってくることは連絡していたので、最悪早く帰ってきて娘を出迎えて! とは言ってあった。
 ひとりで来たことがここで功を成す。夫が娘を担当してくれることで、私は受診フリータイムを手に入れた。嫌だ早く帰りたい。

 手に入れたフリータイムのおかげで落ち着いて受診を待てた。待合室ではおじさんが「いつまで待たせるんだ! もうずっと待ってるんだぞ!」と事務員さんを怒鳴っていて怖かった。
 今朝のもおじさんだったな、と思い出す。こういうおじさんのことを『いつ待ちおじさん』と命名することにした。同時にいつ待ちおじさんって精神科にはほとんどいないな、とも思った。精神科に来ている人はだいたい疲れているので、じっと黙って待っている。あと「ここは時間がかかる場所だ」と理解しているのもある。
 いつ待ちおじさんはこんな大病院を「時間がかからない場所」だと思っていたのだろうか。
 私も接客業の端くれにいた者として事務員さんがかわいそうすぎて、偉い人が出てくるのがもう少し遅かったらおじさんに「これでも読んでなよ」とBLまみれのKindleを渡すところだった。

診察

 診察室に入って循環器内科医という不健康そ・・・・・・細身の男性医師とご対面。全ての結果を見た医師は
「なんにも問題がないんですよね~」
 と言った。それからひとつずつ、考えられる病名と・そうであればで出る検査結果、を説明してくれた。確かにない。なんにも問題がない。
 心臓はちゃんと動いていているし、壁もちゃんとあるし、高コレステロールでもなく動脈硬化もない。
 疑われたのは『狭心症』。
「普通の狭心症っていうのは、飲酒喫煙していて脂を溜めて動脈硬化になって、それで血管が細くぎゅってなっちゃうのね。ぶっちゃけ中高年の男性に多い。猫田さんみたいな35歳で飲酒喫煙もしない女性がなるものじゃないんだよね」
 疑われる病名はあれど『その病気になるための要因がない』のだった。
「でもこれも心電図中に発作が起こってくれないとなんとも言えない。だって痛いんだもんね」
 そして嫌いなあの言葉がまたやって来る。
「様子見かなあ」

 無理です。と言う前に今回は選択肢が与えられた。
「それか、心臓カテーテル検査しちゃうか・・・・・・大変だけどやれば確定で診断がつくから。どうする?」
「やります」
「えっ本当にやっていいの?」
「カテーテルやるか様子見なんですよね、やります。ここ数ヶ月ずっと様子見で生きてきたんですけど、謎の体調不良はもうこりごりだし、多分ここで様子見されると自殺しちゃうと思うのでやります」
 医師はちょっと引き気味で了解してくれた。初診でこの熱量は引いて当然だと思う。今からでもいけるぜ! という決心で来ていたし、言ったけど大人の事情で今からにはならなかった。

 そして検査の簡単な説明を受ける。
「手首の脈が取れるところを(触れる)・・・・・・脈がないな・・・・・・あ~、あ? あったあった! よかった~ここを切って動脈に120センチくらいのチューブを心臓まで入れてね、造影剤を入れて、心臓の周りの血管がどうなってるかをリアルタイムで見ながらする検査で、確定で病名つくから安心してね!1泊2日の検査入院だよ~」
 なるほど・・・・・・途中すごい怖いこと言われたけど生きててよかった。
 その後看護師さんから入院~退院までの説明を受け、事務員さんから大量の入院書類を渡されて帰った。9000円だった。こんなに検査して結果即日公開で入院の予約したのに9000円はお得かも~とか思っていた。医療費に麻痺してきている。
 検査入院は1週間後になった。

心臓カテーテル検査

 検査の体験談はあくまで「私の場合」です。ネットも医師も「たまにいるんだよねこういう人」と言っていたので安心してください。多分。

 朝入院し、医師の外来が終わり次第、と言われて14時を回っていた。緊張はしつくして一周して無だった。いつも寝るときに抱きついているプーさんのぬいぐるみを抱えながら、点滴刺さってだいぶ経つのにまだ痛いな、とか思っていた。夫と娘は検査中~検査の結果を聞くまでいないといけないので、病棟内の面会スペースにずっといてくれた。
 やっと検査に呼ばれて、車椅子で向かう。

 検査室は広くて大袈裟なベッドが置かれていて、人がいっぱいいた。高いベッドに台を昇って寝転ぶ。同時に心電図と足に血圧計がつけられて、ピッ・ピッという音が聞こえてやっと、自分が過呼吸になっていることに気付いた。過呼吸歴20年なのに治し方が分からない。涙がぼろぼろこぼれて「怖い、怖い」とつぶやいていた。
 ベッドの上、というか胸より上部分には360度いくつもの板で囲まれていて、ほとんど外が見えない。その隙間から看護師さんが声を掛けてくれていた。
「あ!プーさん持ってくる!?」
「ほしい」
 最早敬語を使う精神は残っていない。全部タメ口。急遽病室からプーさんが持ち込まれて、でも置き場所がないので私の頭の下に潰して置かれた。プーさんの匂いで過呼吸が治り、いつからいたのか医師の声が聞こえてきた。
「麻酔するね~」
 この麻酔が一番痛かった。手首から親指の付け根にかけて多分6カ所くらい刺されたのだが、1カ所につき3回くらい角度を変えられて刺されるので、18回くらいめちゃくちゃ痛いだけの注射が容赦なく打たれていく。
 ふと医師が
「確か注射こわいのTシャツ着てたよね~」
 と言って看護師さんが
「そんなTシャツどこで売ってるの?」
 と聞くので
「ネット!!!! 痛い!!!! 痛い!!!!」
 と叫んだ。この状況であのTシャツの話題を出すのはサイコパスにしか見えないぞ! と思った。そこからはもうずっと、痛い!!! と叫び続ける時間。
 麻酔が終わるといつの間にかカテーテルが入れられていたのだが、入ってる、と気付いたのは「肘の内側が痛い!!!」からだった。おかしい、ネットは血管には痛覚がないから痛みは感じないと言っていた。医師は、え~? と言いながら容赦なくカテーテルを進める。結論を言うと、肘の内側から鎖骨のあたりに渡って、通過する痛みを感じた。今どこを通っているか全部分かった。麻酔は手首の傷のためだけの局所麻酔なので他には効かない。
医師「たまにいるんだよね~がんばってね~」
猫田「痛い!!!!」
看護師「プーさんはなんていう名前なの?」
猫田「プーさんは! プーさん!」

 カテーテルが冠動脈まで辿り着いて、造影剤を入れられる。特に感覚はない。ここから360度取り囲む板がぐるんぐるん動いて、いろんな角度でレントゲンを撮られていたんだと思う。
 ここからがこの検査の主要部分だ。それは予告なしでやってくる。
 物凄い痛みが左胸の広範囲に走った。痛い痛いと叫ぶ。どんな痛み? と聞かれて、いつものの強いやつ! と叫んだ。痛みの種類がいつもの痛みと同じなことだけは分かった。痛みの強さがいつもの50倍くらいだった。
 次に「今から口の中スーッとするからね~」と言われて、なにか薬が入れられるんだ、と待ち、
「スーッとした?」
「しない!」
「薬増やしま~す。なった?」
「なった!! 痛いのも消えた!!」
 という会話をして、カテーテルはまた痛みを伴って引き抜かれていった。
 いつの間にか手首には透明なバンドが巻かれていて、それがようは圧迫止血をしてくれていた。
 ガクガク震えながらベッドから降りて、車椅子へ。やっと座ると膝にプーさんが置かれた。そこから終わった安心感で涙が止まらず、検査室の看護師さんがずっと涙を拭いてくれた。敬語も帰ってきた。
「こんな、大人なのに、泣いて、すみません」
「いいよ~」

 病室の看護師さんが来てくれて、検査結果を聞く部屋に入ると夫と娘がすでに入っていて、まだおえおえ泣きながら私も入った。

第3の診断『冠攣縮性狭心症』

冠攣縮性狭心症|国立循環器病研究センター冠疾患科 (ncvc.go.jp)

 という名前の狭心症だった。完。
 とはならない。これは狭心症の中で年齢性別を問わず起こるもので、なぜ病名が確定したかというと、カテーテル中に胸がめちゃくちゃ痛くなったあのとき、薬剤負荷検査が行われていたからだった。人工的に冠攣縮性狭心症の発作を起こして、実際に起きていつもと同じ種類の痛みを確認できたので病名が確定した。
 あとは人よりも冠動脈が細くて、発作が起こりやすい体だったこともおまけで分かった。

 血管に異常がなく自然に治ることもある病気なので、対処療法での治療になった。ニトログリセリンのスプレーだ。カテーテル中の「口がスーッとする薬」なので、発作に効果があることも確定済み。
 発作が起こったら舌の裏側にシュッとする。10~15秒で効果が出て、すぐに体内から消えていく。体内にいる時間がとても短いので、妊娠しても使えるという優れもの!
 しかし今のところ(処方されて1ヶ月と少し現在)確定で起こる副作用が
・低血圧(15~30分程度起き上がれない)
・頭痛(5分程度で収まる不思議な痛みのやつ)
 の2つである。薬を使ったらしばらく車の運転どころかもなにもできなくなる。生活に支障があるといえば、だいぶある。発作が起こったのが外出中だと使用を躊躇いひたすら我慢するしかない。という点もある・・・・・・。

 とりあえず1泊2日の検査入院は無事、病名とニトログリセリンを手にして終えられたのだった。57,120円と引き換えに。
 これからはこの病院でなく、かかりつけ医で「薬が終わったら処方してもらう」ということになった。

第4の診断『低血圧』

 狭心症まで出たら終わりだと思っていた頃が私にもありました。
 体調不良が治らない。

 8月に入ってまた6月のような体調に戻ってきた。すぐにかかりつけ医を受診し、一応バセドウ病の血液検査もしてもらったがやはり陰性。そこでかかりつけ医が言ったのが、
「猫田さん、前から思ってたんだけど血圧が低いんだよね」
 と。待って、いや待たなくていい、自覚はあった。入院している間も何度も血圧を測ったが「すごく低いんですけど、体調どうですか?」と看護師さんに心配されたりもしていた。
「今測ったのね、80/66だったのよ」
「嘘だ」
「嘘だと思って2回測ったけど同じだったのね」
「この前ドラッグストアの血圧計で100/70でした!」
「それは立派な低血圧だよ」
 かかりつけ医は語る。
「循環器内科でニトロ出たでしょう。冠攣縮性狭心症だとほとんど○○っていう飲み薬が出るんだけど、それは血圧を下げる薬だから、入院中の血圧見て出せなかったんだと思う。ニトロもすごく血圧が下がるけど、少しすれば良くなるから、発作時だけの低血圧で済むニトロが選ばれたんだと思う」
「この前ニトロ2回吸って気付いたら2時間経ってたのは・・・・・・!」
「低血圧で失神してるからもうやめてね」

 もうなにも言えない。自分の症状を低血圧の症状と照らし合わせてみれば、まあ一致すること。
・食欲減退
・体のだるさ・慢性的な倦怠感
・頭痛
・動悸(血圧の下がった体を心臓がなんとかしようとして激しく鼓動する)
・肩こり  等

「低血圧を治す薬はあるんだけど、足がすっごくむくむからすっごく患者さんに不評なんだよね。だからできるだけ使いたくなくて」
「それは嫌かも・・・・・・どうすればいいですか」
「塩! 塩分を多めに取って! 水分と多めの塩分で血圧を上げて!」
 普通の人が高血圧になるような食事をすれば普通の人になれる! 分かりやすすぎる食事療法だった。


まとめ『病院へ行こう!』

 怒濤の4ヶ月を過ごして、あることに気付いた。
 あれ? 症状だいぶかぶってない?
・動悸息切れ頻脈
・倦怠感
・食欲減退による体重低下
 これらはバセドウ病・β2刺激薬の副作用・冠攣縮性狭心症・低血圧の全てで起こっていた(私の場合)。
 全く違う病気なのに、出てくる主な症状が重なる。これはとても怖いことだと思った。
 私は運良くそれぞれの診断がついたけれど、どの病気か分からず長いこと悩み続ける人がいるかもしれない、と思った。バセドウ病なんてうつ病を抱えていると「それはうつ病の症状ですね」でずっと放置されることもあるらしい。β2刺激薬の副作用は稀で重いものがたくさん出ていたから、今もまだ使い続けていたらもっと重篤な症状に陥ってしまっていたかもしれない。
 それらはとても怖いことだ。

 だから、運の良い人、が増えてほしい。
 そのためには体調不良があったらちゃんと受診してほしい。

 このnoteを読む人はきっと少ないけれど、こういうパターンもあるのだと知ってほしい。
 体はひとつなのだから、どこかが悪ければ連鎖していくものもある。それが体と精神であっても。人体は絶妙な細やかさで成り立っていて、ひとつが狂うだけでいろんな症状が出るから、どうかそれを見逃さないで。



 以降、私はなんとかやっている。
 と言ってもだいぶ工夫して生活しなければすぐに体調は悪くなるので、調節が大変だ。水分をたくさん摂らなければならないが、水分ばかりにかまけていると塩分が少なくなって体がだるくなる。塩分タブレットを常備していなければならない。
 狭心症の発作が起こったら薬を使うけれど、直後はなにもできなくなる。だから娘の、子供会の役員も降りることになった。これは罪悪感がメンタルにきたりもした。
 次は2月頃にバセドウ病の定期検査をする。
 うまくいかない人生だね。

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