【掌編小説】血だらけのジューンブライド
※一部、残虐な表現があります。心臓の弱い方、血にトラウマのある方、などはご注意ください。何があっても作者は一切、責任を負いません。
麻衣のスピーチも終わって、プログラムはどんどん進んでいく。この日をどれだけ心待ちにしていたか分からない。やっぱりゲストハウスにしてよかった。窓の外には大きな温水プールが広がっている。まるで豪邸に住んでいるかような気分でテンションも上がってきた。
今日の主役は私なんだ。
こんなに良い日はないと思う。夢だったジューン・プライドの花嫁になれた。小鳥のさえずりさえも絵になる。健太の方を向けばほほえみ返してくれる。そして、カメラマンがすかさず、シャッターを切る。目の前には"お嫁さんになれる眺め"が広がっていて、じんわりと目の奥に熱いものがやってきて、すぐさまハンカチを取り出した。
「せっかくの綺麗な化粧が崩れるよ~」
健太は気を遣って、わたしにしか聞こえない小さな声で言ってくれる。そんなやさしい人と結婚できるのが、ほんとうにうれしくてしょうがない。
司会がマイクを持って、わたしからそっちに司会がうつる。
「産んでくれて、育ててくれてありがとう」
いよいよ、この時間がやってきた。
司会の明るい声が式中に響き渡る。一呼吸置いて、目配せをされた瞬間にマイクに向かって歩き出した。
式場スタッフから渡された、浜辺にあるきれいな貝殻のようなピンクのガーベラのブーケをぎゅっと握りしめる。
「すべての気持ちを込めてこの花を贈ります」
みんなからのあたたかい拍手に包まれながら、ゆっくり歩く。純白のドレスをすこし、たくし上げるように持って、時々、親友の麻衣に手を振り返す。この上ない幸せに包まれていて、さっきから口角は自然に上がりっぱなしだ。ほんとうにしあわせ。
「お父さん、お母さん、本当にありがとう」
涙ぐんだ声を絞り出す。
私はこの瞬間をずっと、心待ちにしていた。
号泣する父を初めてみて、なんとも言えないあたたかい気持ちが私にもやってくる。
そして、両親に花束を渡そうとした、その時、爆発音と共に、大きく潰れた車体が目の前にやってきた。ふと横を見るとザクロのような生首が転がり落ちていて、「ヒッ……」と、溢してしまった。不意の出来事出来事に女性の甲高い悲鳴が何度も反芻して、消滅しない。この只ならぬ状況に式は一時停止してしまった。会場全体に張り詰めた空気が流れる。 足元を見るとせっかくの純白のドレスが血に染まっていた。ウエディングドレスを引き摺りながら、後退りして逃げようとしても、会場の端までガラスの破片が飛び散っている。まるでカップの底だけ抜けたような悲しみが襲ってきた。
すぐに、息を切らした警備員が到着。
「危ないですから下がってください」
その警備員の一言で、スマホを掲げた人達が叢がる。あまりの思いもよらぬ出来事に、まるで全身の血が無くなるかと思うぐらい寒くなって、蹌踉めいた。
すかさず、健太は抱きしめるように支えてくれて、いつもの唇の感触がした。