ケア日記ー弁護士さんがやってきた 6月29日
きのうは妹の治療費云々のはなしで弁護士さんがやってきました たまにお客さんというと母とわたしは大緊張 朝早くから起きだして玄関先から大掃除でした
午後の約束の時間の2時間ほどまえに妹が到着 ワゴンタイプのタクシーに車椅子と書類でふくらんだリュックサックを乗せてきました
妹が居間で遅いランチをとっているあいだに、わたしは弁護士さんに出すお茶菓子を買いにひとっ走り 手作りしているヒマはありません
お菓子やさんへの行き帰りの道々考えました 母はコーヒーをいれなさいと言ってよそ行きのカップを準備してくれたけれど、弁護士さんがやってきてからわたしが奥でコーヒーをいれていたら話もできません
「ママ、こないだ届いた韃靼そば茶はどう? どんな味かわからないけど冷やして氷いれてみたらいいかも」
「そうねえ」
母は意外と素直にそう言って、やかんにお湯を沸かしはじめました これでひと安心、言ってみるものです
約束の時間に弁護士さんがブルーの車に乗ってやってきました 昔ながらの広さしかないガレージに最近の大きめの車体を入れるのはひと苦労です
洋間に裾が短めのパンツ姿で車いすに乗る妹、白シャツに黒ズボンの真面目そうな弁護士さん、綿の縞シャツを着た母、母が縫ってくれた赤系夏ワンピのわたし、4人で話し始めました
となり近所に声が響くか気になりましたが、いまは換気優先、部屋のまんなかに小型の扇風機を回し、あちこち網戸にしたままです
弁護士さんは過失割合について、こんな風に話してくれました
「駐車場は車と人が両方とも・・ですから加害者10割といっても、どちらも気をつけましょうということで1対9が相場です。加害者に重大な過失があると変わってきます」
駐車場での事故は、歩行者の1割負担が相場らしい
役所勤めのときに機械式立体駐車場の事故調査に関わって駐車場の事故防止に関心をもち、離職後は100%文系というのに無謀にも事故防止用台車のひとり発明をして特許をとったわたしは、あーなるほどと聞いていました
この個人特許、目下開発中といいたいところですが、実用化のめどは立っていません 工学系の技術者や先生方にご相談したことはあるのです
知り合いにPL法にも明るい技術者の方がいらしたのですが門前払いでした 工学の先生は一目みて「簡単に作れそうだな」とおっしゃいましたが、レベルが違いすぎて簡単の意味がよくわかりませんでした
もうひとり、かなり年配の技術者の方もいました 「機械メーカーをリストアップし、企業回りをしたらいい」とアドバイスをくれましたが、いきなり見ず知らずの者が機械メーカーのドアをトントン叩いて開発してくださいというわけにもいきません 企業にちゃんと利益が出るか確証だってありません
そうそう、機械式駐車場といえば重工業です たまたま重工業メーカーに知り合いがいて相談したこともありました ラッキーなことにその人は興味をもってくれ、とんとん拍子に開発部にまわしてくれました いまおもえばこれが一番最初の相談でした
楽しみにしていた開発部からの回答は全面的にノーでした いくら駐車場事故防止といってもわたしが発明したのはしがない台車、リヤカーが機械式になったようなものです これでは逆立ちしても重工業にならないというわけです
たしかにわたしの発明は重工業で作った機械で起きる事故を防止するために別立てするちいさな機械なんですから、重工業からのゼロ回答はやむなしです
そんなわけで機械式駐車場事故防止台車の実用化のはなしは四面楚歌です
それでも特許をとるというのは、なにもないところからひとつの発明を作り上げ、ほかのたくさんの特許文献との関係を整理して、審査を通過したという不思議な充足感があります
特許文献の整理は弁理士さんのフィールドらしいですが、わたしは自前でやっています
最初はどうしていいかわからず積まれた文献を前にしり込みしましたが、やってみると意外に判例研究と似ています 課題となった文献からこれまでの発明ポイントを探しだして、自分の発明と比較するところが宝探しみたいに面白いのです
わたしは哲学出身で100%文系といっていますが、哲学者や思想家で理系の方はもちろんたくさんいます
パスカルとウィトゲンシュタインは特許をとっているそうです パスカルは計算機や水圧プレスを発明しただけでなく、いまのバスの起源となる「5ソルの馬車」といわれる乗り合い馬車を発明し、これで特許をもったらしいです
試しに手元にある古めのブリタニカでパスカルの項を開いてみたら、乗り合い馬車の特許には一言も言及がありませんでした 少しばかり残念です
パスカルは「5ソルの馬車」を事業化したそうです 事業の成功への期待が大きかったのか、苦労したようで、Wikipediaによると創業から半年後、まだ30代の若さで病死しているのがしのびないです
うまくいかなかった理由は、一説には乗客になにか条件があったからだとどこかに書いてありました
ウィトゲンシュタインは建築家でもあったそうで建築で特許をとったのでしょうか
ウィトゲンシュタインは、哲学は魔法が解ければガラクタみたいなものだといっていますから、自身の発明も時間がたてばガラクタなのでしょうか? 思想家ならではの発明哲学が潜んでいそうです
それはそうと、パスカルとウィトゲンシュタインの特許は、哲学や思想は霞をたべながらのものではないと教えてくれる気がします
わたしがある日突然思い立って駐車場事故防止台車を発明してみてもちっともおかしくないわけです 哲学や思想にもあたらしいなにかを提案する、発明的な要素があるような気がするんです ここだけは声を大にしていいたいです
なんですか、中断したまま遅々として進まないプレゼントーク翻訳とおんなじで、自分という人間はなにを言ってもグダグダ言ってるだけでちっとも進まないひとに思えてきました その昔だれかにいわれたとおり変わっているのでしょう
横道にそれすぎました 下町歩きみたいにちょっと角を曲がって路地にはいりこむのが好きなんです 下手をいとわず文章を書くと自分の好みを隠せなくなります
えっと、この記事のテーマに戻らなければ そうそう、妹がケガをした駐車場の事故でした
この事故のおかげで、わたしと妹のあいだに、どうしてお姉ちゃんは駐車場の事故防止台車なんてものを発明したのかについて、思いがけない理解が生まれました
事故の一報を受けて以来、よりによって妹が駐車場で歩いていて骨折かぁと、わたしは気づけば長いため息ばかりつくようになりました 肋間神経痛はそれが一因かもしれません
妹はある日、「たしか駐車場の台車を発明してたよね? もしお姉ちゃんの台車があれば、わたしの事故は起きなかったの?」とズバリ質問してきました
わが妹ながら質問の的確さにちょっと嬉しい舌を巻き、姉はここぞとばかりおごそかに答えました
「そうよ。アタシの台車があれば、同乗者と運転者は駐車場エリアの外で車から降りることになってるの。同乗者が駐車場のなかで歩き回らないための台車でもあるのよ。これなら事故が起きないから特許をくれたんじゃないかしら? さすがは特許庁だわ」
「へえー台車があれば、この事故起きなかったんだ。それ絶対? 絶対起きないの?」
妹はシーネと包帯でグルグル巻かれた足から目をあげて聞いてきました 姉妹とはいえ、ちょっと逃げられない感じがします
「絶対って言わないことにしているんだけど、ここだけの話ね。発明者としてはこの台車を使えば絶対起きないとおもっているのよ。わたしの発明は機械式駐車場のためだけど、自走式だっておなじアイデアを使えるとおもうわ」
「そうなんだ。役に立つじゃない!?」
妹は痛みで顔をしかめながら、包帯の足元をみていいました オペの前、まだ痛みが強いころのことでした
「ありがと 実用化するように祈ってて」
妹はうなずき、姉の発明の意義をだれよりも深く納得したようでした
ひとしきり話すと、弁護士さんは「まずは治療専念ですね」と念を押して鞄を抱え、帰っていきました
そろそろ夕暮れ 久しぶりに3人の夕飯はなににしようとおもいながら韃靼そば茶を片付けました
なにかあれば母のケアを手伝ってほしいと思っていた妹ですが、思いがけない形でわたしのひとり仕事をわかってくれるようになりました ため息つきながらもめでたしめでたしです
この記事を書いているあいだ、母はひとりで近所の直売所へ買い出しに行きました 静かになった家でああだこうだと書いていたら ピンポーン
おかげさまで母は無事に帰ってきました 途中で長年の顔見知りに会い、その方の庭先で林檎ジュースをいただきおしゃべりをしてきたそうです
このまちは一人暮らしの元気なお年寄りが多く、母にもお仲間がいるらしいです
母は事故防止でアタマいっぱいの変な娘から解放されて、日に日に笑顔が多く颯爽としてくるばかりです(笑)
書けども今日もとりとめなし 雨が降ってきたので雨戸を閉めて眠ります
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