ラノベ編集者は作家さんの味方なのか?
ネットやSNSを眺めていますと、たまに
「企画が全然通らない」「納得いかない修正を要求された」などなど、
編集としては耳が痛い作家さんの声を耳にすることがあります。
実際のところ、ラノベ編集(特に担当編集)は作家さんをどう思っていて、果たして味方なのでしょうか? 敵なのでしょうか?
先に結論を申し上げますと…もちろん大好きで、味方です!
いやいや、そんなことはあり得ない!と否定する向きもあると思いますが、いったんまずはお話を聞いてください。
あくまで私の知る範囲と経験に基づくお話になりますが、
よろしければどうぞ。
【証明①】編集は担当作家さんの作品が大好き
冒頭からいきなりこう書くと信じて頂けないかもしれませんが、
長く編集をしてきて、担当作が嫌いな編集を見たことがありません
(※ツンデレな人を除く)。
むしろ大好きな作品を1冊でも多くの方に届けるにはどうしたらいいか、
どうしたら少しでも面白く、より魅力的な作品にできるか、
四六時中そればかり考えている人しかいないように感じます。
いくら仕事でも嫌いだったり敵だったりしたらそこまでできないですよね。
それに、原稿をお願いしたい作家さんに声をかける場合はもちろん、
新人賞で作家さんの担当をする場合も志願で選ばれることも多いです。
一般的に、嫌いな人に声は掛けませんし、選びもしないと思います。
もちろんお仕事を始めてから合う合わないがわかることはありますし、
最初は蜜月でも、後に関係が悪化することもないわけではありません
(特に突然すごく売れたり、逆に予想より売れなかったりすると、)。
急に関係が悪化することがあったりなかったり…?
それでも。
作家さんと折り合いが悪くなったとしても、
そのために作品を推したいという気持ちが変わる編集はいないと思います。
誰もが全力で、隙あらば一部でも多く刷ってもらい、
営業さんに販促してもらっていい展開をしてもらおうとします。
編集の本能なのか何なのか…?
それはわかりませんが、少なくとも編集は担当作家さん推しですし、
担当作品を作家さんに次いで誰よりも大好きな味方だと思います。
【証明②】企画を誰より通したいのは担当編集
時に「担当が全然企画を通してくれない」と嘆きを聞くことがあります。
何度も何度も修正依頼が来て、直しても直しても企画が通らないとき、
「本当にこの編集は仕事してるのかな?」と思うこともあると思います。
これについては編集として力不足なところもあるので
申し訳ない気持ちもいっぱいではあるのですが…。
編集としても面白い作品は世に出したいのがまず第一にありまして
(そのために編集というお仕事をしているといっても過言ではない)
加えて、仕事としても年間の刊行目標点数が決まっていることが多いため、
本にしたいと思える企画があればなんとか通したいのが本音です。
※編集は基本、本を出さないと会社で評価されません。
ただ、いっぽうでこの作家さんはもっと更にいいものを書くことができる!ポテンシャルを全て出しきれていない!もったいない!!と感じるときなど、企画会議に出す前に編集判断で止めてご相談させて頂くこともあります。
※もちろん絶対会議を通らないであろうウィークポイントがあれば、
そこを潰すためにご相談を繰り返すこともあります。
これは担当編集の責任の部分ですので、
ここで通らなくて納得頂けないのは、申し訳ありません。
相談不足だったり、説明不足だったり、説得力不足だったりするかもしれません。
それでも①でご説明した通り、誰よりも作家さんのことを信じて推しているからこそ、期待のハードルが上がってしまうことはあります。
いっぽう、ここで企画について意見を出し合って殴り合う(物理的でなく)ことが編集と作家さんの間で作りたい方向性を確認する大事な機会でもあるため、そんな時は「あいつが意地悪している」とは思わず、ぜひ意見を戦わせてください!
また、企画が通らない理由は実はもう一つあります。
それを止めているのが、担当編集でなかったりする場合です。
たとえば、普段作家さんから見えているやりとりといえば。
「編集」→←「作家さん」
かと思います。
そこだけ見ると、担当編集が作家さんの企画を阻む壁に見えますが…。
実際には「編集」の背後には編集長や営業、会社のお偉方といった、
企画を通すか通さないか最終判断する存在があったりします。
「企画を通すか決める方たち」→←「編集」→←「作家さん」
つまり、本当はこういう構図もあるのです。
ですので、担当編集が止めたいのではなく、
その上で止められていることもあります。
担当編集からいろいろやってくる修正依頼の中に含まれる無茶振り提案や「それを採用したら企画の魅力も半減だが!?」と感じてしまう思い付き提案には、そこ由来のものもあったりもするのです。
そんなの担当編集が突っぱねるなり何とかしろや!と思うかもしれません。実際、担当編集は作家さんの代わりに何とかしようと戦っています。
修正依頼一つでも、逆に
「それじゃこの点だけうまくクリアできれば刊行できますよね?」と言質を取り、何とか企画を通す糸口を探った結果だったりすることもあるのです。(そして修正して頂いて臨んだ次の会議で、
違う指摘をもらって絶望して帰ってくることもあったりするのですが…)
要するに。
普段から一見作家さんに厳しいことばかり言う担当編集ですが。
くるっと180度向きを変えてお偉方(?)に向き合うと、
逆に、厳しいことを言われる立場に早変わり。
それでも、そこで誰よりも作品の魅力を伝え、
作家さんの言い分を補強しながら
「ここだけ直したら刊行できますね?」と条件を引き出しつつ、
様々な手で落としどころを見つけようとしています。
ちなみに、企画を通すか決める方たちも、悪意があるわけではありません。
誰もが売れる作品を刊行したい、より多く売れるかたちにして刊行したいと考えているため、話し合いはとても真剣なものになります。
同じ「売りたい」でも、立場や見方が変わると要求も変わります。
時には言い合いのようなかたちになってしまうことも。
担当編集も、面白く、作家さんと練り上げた企画であればあるほど、
会議を通すための数字や仮設、販促プランなども考えて会議に臨みます。
そのため、その結果、通せなくて怒られることもありますが、
作家さんに怒られるより前に、面白い企画を通せなかった自身への不甲斐なさ、申し訳なさによるへこみ度合は、半端なものではありません。
それでも、いろんな立場からいろんなものをぶつけられながら、
時に背後の作家さんから叱咤されながらも、
日々作家さんの味方であることを願い、できるかぎり戦いを続けています。
あまり目にしない、見えない姿ですが、作家さんのいちばんの味方として、
自身にしかできない仕事を最大限やろうと努めていたりするのです。
【証明③】担当作品のために最善を尽くす
みなさん、編集というと労働時間が長いイメージがありませんか?
実際、比較的労働時間は長く、土日祝日関係ないときもあります。
でも、実はラノベ編集はそうでない働き方もできます。
具体的にどうすればいいかといいますと。
シンプルに、一つ一つの工程に手間をかけなければいいのです。
極端な話ですが、本文とイラスト、そこにデザインを組み合わせれば、
どんなかたちでも本を作ることはできます。
頂いたものを組み合わせるだけなら簡単ですし、時間もかかりません。
(企画にしても、ボツの一言で済ませて再提出を求めたほうが楽です)
では、どうしてそうしないのでしょうか?
それはやはり、編集は作家さんと作品、イラストレーターさんが大好きで。
そのポテンシャルを少しでも引き出すために仕事をして、
上げて頂いた文章やイラストを最大限活かしきるために
動きたいと考えているからだと思います。
(余談ですが、私も同じ作家さん、あるいは同じ絵師さんが描かれた作品が他社であるなら、少しでも作家さん絵師さんのポテンシャルを引き出して、担当作品を他社の作品より結果的に勝ったものにしてみせる!という気概を持って仕事をしていました)
もちろん長時間働くことがクオリティを担保するわけではありません。
効率よく素晴らしい仕事をする編集もたくさんいます。
それでも。
創作は単純ではありませんので、1分1秒でもあれば、
少しでも何かできるのではとつい考えてしまうのが編集という生き物です。
編集は何も書けず、描くこともできませんが、
作家さんやイラストレーターさんの創り出された作品
一つ一つが容易に成しえるものではないと知っていますし、
大切な原稿を受けとったその先に、作品を楽しみに待っている読者が
いることもまた知っていますので、誰もが真摯に作品に向き合います。
その魅力を一人でも多くの方に伝えるためには、
たとえ夜が遅くなったり、土日が潰れたりしても、厭わない人も多いです(自分から潰したいとは誰も思っていないと思いますが…)。
ラノベ作家さんは兼業が多く、昼間に別のお仕事をされていたりするため、打ち合わせは夜が多く、イラトレーターさんも昼夜逆転されていて、
例えば朝4時に完成報告の電話が来たりすることもあります。
加えて。
入稿が近いのに原稿が来る気配がゼロの時などは、
土日関係なく作家さん、イラストレーターさん、デザイナーさん、
印刷所さんとこまめな確認と調整が必要ですし。
刻一刻と校了が迫る中、まだ作家さんが実力を発揮しきれていないのでは? この週末であと一歩よくできるのでは?と考えたりするときは、
自身の土日よりクオリティのことしか考えないことも多いです。
作品は本のかたちになったら、もう直すことができなくなってしまいます。
もし一度の土日を惜しんで、納得のいかない本になってしまうのであれば。
土日働いてでも後悔のない作品にしたいです。
このように、長時間労働かつストレスやプレッシャーが多いなかで、
それでも皆辞めずにこの仕事をしているのは、やはり作家さんやその作品が大好きで、自身の仕事に誇りをもって、少しでも作品をいいかたちにして、
たくさんの方に送りだしたいからだと思います。
感覚やスタンスは編集によって違うと思いますが、
当然味方といいますか、ともに戦う同志だと考えているはずです。
--
いかがでしょうか。
編集は作家さんや作品の味方である、
少なくとも敵ではないという一面が、少しでも伝わりましたでしょうか。
編集と作家さんとで馬が合う、合わないはあるかもしれませんが…改めて!
「作家さん(と作品)が嫌いな担当編集なんていません!」
作家さん全肯定!味方!!…とまでは言い切れませんが、
味方であることは疑いないと思って頂けたら幸いです。
そこに一言付け加えるなら、
仲がよい編集と作家さんが一緒に作る作品が、
必ずしも売れるものになるわけでもなく…!
関係が悪くても売れているシリーズを
一緒に作っているケースもたくさんあります。
味方のなかにも、いろいろな関係があります。
編集と相性が悪いからと、担当変更を勝ち得た結果、
前の編集がいかにいろいろしてくれていたか
気づいたという話も聞いたことがあります
(もちろん逆のケースもあるかと思いますが)。
ぜひ作家さんには、担当編集を、味方としてうまく使って(?)、
企画を一緒に通し、力を合わせてそれぞれの領分で最大限能力を出し合い、素晴らしい作品をたくさん世に送り出して頂きたいと願っています。
今回も特別長くなってしまって申し訳ありません…。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?