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ガボット

土筆が出る季節になってしまった。

河川敷で河面を眺めていると楽器の音が聞こえて来た。

バイオリンを弾いている彼女を見つめると睨み返された。おお怖い。

彼女は繰り返し同じ曲を弾いた。何時間も。暗い曲だがなぜか飽きなかった。

彼女が去ったあとその場所を通りかかると、何かが落ちていた。

翌日「これ、お姉さんの?」と僕が渡したら、彼女は「ありがとう」と言うと楽器に取り付け、顎と肩の間を支えた。その時から、僕が近くにいても彼女は睨まなくなった。

僕は毎日、彼女の曲を聞きに来た。

「いつまで弾くの?」

「気が済むまで」

僕はそこに通い続けた。聞いていて、いろいろな事を思い出し、泣きそうになったが耐えていた。

しかし、ある日、同じ曲なのに彼女の演奏の何かが違っていた。

僕は涙を抑えられなくなって大声で泣いた。その僕を見て彼女は言った。

「なぜ自分が演奏しているのかわからなくなっていたの。もうここには来ない。長い間、聞いてくれてありがとう」

それから僕が学校に行けるようになって長い年月が過ぎた。

僕が客の注文したコーヒーを入れている時にラジオからあの曲が流れ、曲名が紹介された。

「お送りしましたのはリュリのガボットでした」


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