美味しい時間は、間違いなく人を幸せにする。
箸で持とうとすると、
ぷるぷる震えて今にも崩れそうなだし巻き卵。
箸を入れるとスッと切れて、出汁色に染ったおでんの大根。
目の前に出された器からは、ほわぁ〜って瑞々しい湯気が美味しい香りを私のもとへ運んでくれる。
大きな仕事が片付いて、ホッとしたある冬の寒い夜。
夜の少し空いた時間に、自分を労ろうと決めて富士見ヶ丘の立ち飲み中華『きくらげ』に来た。
メニューは数種の水餃子や麻婆豆腐に生ハムやチーズの春巻きなど、王道から変わり種まで。
私がきくらげが好きな理由はいくつかあるが総じて言うと、美味しい時間を過ごせるから。
1月の夜は寒い。
入口の扉が結露していることから中が暖かいことがよく分かる。
きくらげの料理は美味しそうに見えるし、実際美味しい。
隣にいたハットを被ったおじさんが食べている真紅の麻婆豆腐がとても美味しそうで、
「食べたそうにしているのがわかるよ笑。たべる?」
って分けてもらった。
花山椒の痺れる香りと辛さ、沸き立つ旨味で、寒い体が芯から温まっていく。
立ち飲みのいいところは、隣の人との距離が適度に近いところ。
気軽にコミュニケーションが取れるし、じっくり飲みたければ、その日の余韻にじっくり浸りながら過ごすこともできる。
麻婆豆腐の人とは初めましてだったけど、乾杯して、同じご飯を食べて、力まないでいい時間だった。
今日は先客のおじさんが隣で飲んでいた日本酒のおでんのだし割があまりにも美味しそうで、思わず頼んでしまった。お供はおでんと、だし巻き卵。
二言三言言葉を交わして、おちょこをグッと煽る。
おでんは咀嚼すると、口の中でじわっ〜っと、出汁と具材の味が湧き水のごとく出てきて、体が細胞レベルで喜んでる。
だし巻き卵は、カウンターの向こうから「どう?」って聞かれたら思わず「生きててよかった」って返事しちゃった。
それを見て隣のお客さんが楽しそうに笑うから、また言葉を交わして、乾杯して。
店主と話して、お客さんと話して、美味しい料理と言葉と時間を分かちあって、笑顔になる。
誰かと食べる、美味しいご飯。
美味しい時間は間違いなく人を幸せにする。
きくらげは美味しい時間を過ごせる、私の帰るべき港の1つ。
一見さんでも美味しい時間が過ごせるので宜しければぜひ。