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芸術のヘアカット
ゆうべ風呂の湯が溜まるのを待っている間にふと、
「髪を切ろう」
と思い立った。
猫に邪魔されないようドアを閉め、洗面台の鏡に向かい、肩につくほど伸びた髪を9割方くくって頭の上へ固定した。襟足に残った髪をつまみ、100均で買った漉きバサミを入れる。ところがこれがなかなか切れない。
ちなみに昨日は休肝日だったので、私はシラフだ。
普段は近所の1000円カットのお世話になっている。夏の間は暑いので、後ろでひと縛りにできたほうが楽だろうと切らなかった。そろそろバッサリやりたい。今回は何となく自分で切りたかった。芸術の秋だから、かもしれない。
伸びすぎた前髪や、1000円カットの切り残し、なんか気に入らないこのライン、などを私はちょくちょく自分で切る。そんな君、プロの美容師に任せておけばいいものを。そう言いたい気持ちもわかるが、私の髪は私のもの。切る権利は私にだってある。
しかしこの漉きバサミ、全然切れねえな。
当たり前だ。漉きバサミはカットしたあとの髪を漉くのに使うものであり、バッサリ切るためにあるのではない。
「お風呂が沸きました」
私がもたもたしている間に風呂から呼ばれた。とりあえず内側の1割は苦労の末に短くなったが、このやり方では残りの9割を切るのに何時間かかるかわからない。ひとまず私は髪の散らかった洗面台を片付けて、風呂に入った。1割だけがほかの髪より15cmほど短い状態で寝た。
翌朝。6:30に目覚めた私はすぐさま洗面所に向かった。ドアを閉め、30リットルの透明ゴミ袋の片端を切り、洗面台の中に広げて四隅をガムテープで止める。肩にタオルをかけ、首の前で固定。髪をスプレー水で軽く濡らしたあと、右手で裁断バサミをつかんだ。どんな分厚い布もお任せあれ、切れ味抜群で重みのある、どこかの職人が作ったまあまあ高級なハサミである。
ジョキン。
実に心地よい音を鳴らして、私の髪のひと束がゴミ袋の上に落ちた。
思い切ったことをやるのは早朝に限る。頭がまだぼんやりしているため、余計な心配をしなくて済むからだ。脳はただ私の右手に「切れ」とだけ命令する。素直な右手は大きなハサミでジャンジャン髪を切り落とす。
肩まであった髪は、10分ほどでおかっぱになった。
一度髪を乾かしてから、がたがたの毛先に漉きバサミを適当に入れた。三面鏡で左右を確認。後ろはきちんと見えないので、勘が頼りである。
「まあこんなもんでしょ」
完璧など求めていない。すっきりすればそれでいいのだ。私は洗面台を早々に片付けた。まだ覚醒しきっていない脳はご機嫌で、私に鼻歌なぞを歌わせる。
芸術の秋。
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