栄枯盛衰
東京から地方都市に移住して一年が過ぎた。
この僅か一年でさえ
街は少しずつ変わっていく。
新幹線が停まるような主要駅前で
長年営業していたイトーヨーカドーが
今年、この地方で軒並み撤退し、
私が住む街も例外ではなかった。
駅前の一等地には再開発中の空き地が、
ほぼ進捗もないまま放置され、
本来、駅からは見えない遠くの山並みまで見通せる有り様だ。
「昔はこの街にもいくつかデパートがあったんだよ」
こっちに来てから知り合った人が
懐かしそうにこう続けた。
「デパートの屋上にちっちゃな遊園地があって、子供が小さい頃はよくそこで遊ばせたりね。今はずいぶん寂しくなった」
彼女は私の親世代だから、
ギリギリ同じような景色を見ていた。
デパートと言っても恐らく長崎屋などのビルだ。
私が子供の頃にはまだ、
どこにでもあったそれらの商業施設は、
気づけば跡形もなく消えてしまった。
駅前は衰退する一方で、
幹線道路やそのバイパス沿いは
広い平面駐車場を完備した大型スーパーや、
チェーンの飲食店や商業施設が次々とできて、
車社会のこの地域においては、
狭い道が複雑に交差する駅前よりも
よほど便がいいので客足はそちらに流れている。
そしてそこでも手に入らないものはネットで注文すればいい。
こうして駅前がどんどん寂れていく。
だけどこうなってくると
全国どこに行っても同じような街になってしまい、地域性や風情は薄れていく。
もともと旅行業に従事していた私としては、
それはなんか違うという思いです。
そんな私がこの街の魅力は何だ?と考えた時に真っ先に思い浮かぶのは、主要駅から車で一時間以内の距離に昔ながらの温泉街が複数あるという立地の良さ。
新幹線を降りればローカル線やバスで
気軽に温泉地や避暑地に行くことができる。
だけどこの街はその利点を活かすほどの商魂がない。観光客よりも住民を増やすことに必死。
冒頭に記した再開発地の建設計画を見ると
複合型商業施設と住居棟とあり、
やはりここにもマンションが建つ。
そのすぐそばで看板をおろしたばかりのヨーカドーが静かに佇んでいる。
温泉地には大型旅館の廃墟が目立ち、
何年もそのままだと聞く。
空き家も増えている。
そしてまたどこかで
新たな商業施設オープンの一報。
これは私が住む地域の問題だけではない。
各地で同じような課題を抱え
すでに様々な取り組みが始まっている。
無名の作家である私も模索しているが、
まだその答えが出ない。