ワインにうま味はあるのか?
ワインの風味や香りをどう感じるのか?
「このワインにはうま味があるだよね~」と言われるのを聞いたことがあります。テイスティングチャートには、甘味、酸味、コク、果実風味、後味、などの項目がありますが、うま味の項目はないですよね。果たして、ワインにもうま味が存在するのでしょうか?
うま味とは何か?
うま味は、1908年に日本の科学者池田菊苗によって発見された、五つ目の基本味です。グルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸などのアミノ酸やヌクレオチドによって引き起こされるこの味は、肉、魚、野菜、乳製品、そして発酵食品に多く含まれています。うま味は、料理に深みと豊かさを与え、他の味覚を引き立てる役割を果たします。
ワイン中のうま味成分
実は、うま味成分として知られるグルタミン酸がワイン中に含まれています。特に長期間熟成されたワインや酵母接触が長いシャンパンに多く含まれています。ですが、ワイン中のグルタミン酸の濃度は一般に低く、単独では味覚閾値(通常は29~30 mg/100 mL)に達していないため、明確なうま味を感じることは難しいです。
シャンパンと牡蠣の相性の科学
Umami synergy as the scientific principle behind taste‑pairing champagne and oystersという論文が、2020年にScientifc Reports というバイオの業界ではちょっと名の知れたジャーナルに掲載されました。シャンパンと牡蠣の組み合わせが特に美味しいとされる理由を科学的に解明しています。
この論文のタイトルを見て、思わず小躍りしてしまいました(笑) iPS細胞について掲載されるようなジャーナルに、ワイン中のうまみ成分についての論文が掲載されるなんて、めちゃくちゃ嬉しいじゃないですか!
この研究では、シャンパン中のグルタミン酸と、牡蠣中のグルタミン酸とイノシン酸やグアニル酸が組み合わさることで、強力なうま味が生まれることが示されています。
具体的には、シャンパンと牡蠣の組み合わせにおいて、シャンパン中のグルタミン酸が牡蠣中の核酸(5’-ヌクレオチド、特にイノシン酸とグアニル酸)と相互作用し、強い相乗効果を発揮します。この相乗効果により、口の中で豊かなうま味が感じられ、全体の味覚体験が向上すると、述べています。
シャンパン中のグルタミン酸:
シャンパンにはグルタミン酸が含まれており、その濃度は一般に1.4~7.5 mg/100 mLの範囲です。これは味覚閾値を下回るものの、他のうま味成分と組み合わせることで効果を発揮します。
牡蠣中のうま味成分:
牡蠣には高濃度のグルタミン酸(約160~257 mg/100 g)と、核酸(イノシン酸とグアニル酸)が含まれています。これらの成分は単独でも強いうま味を持ちますが、シャンパンと組み合わせることでさらに強化されます。
相乗効果のメカニズム:
うま味の相乗効果は、グルタミン酸と核酸が同時に味覚受容体に結合することで生じます。この結合により、神経信号が強化され、脳に送られるうま味の感覚が増幅されます。シャンパンの酸味と牡蠣のうま味成分が組み合わさることで、非常に豊かで複雑な味わいが生まれます。
なるほど~。ワイン中に含まれるグルタミン酸はそれほど多くないけれど、グルタミン酸のうま味を増強させる成分が入ってる料理と一緒に食べると、うま味増強って、マリアージュの大切が科学的に示されたということになります。
他の料理との相性
それを考えると、ワイン中のグルタミン酸が、うま味成分を含む料理と組み合わせることで、その相乗効果を発揮することになります。
例えば、トマトやキノコ、チーズなどのグルタミン酸を多く含む食材とワインを合わせることで、料理全体の味わいが深まることが考えられます。実際、赤ワインは、トマトソースを使ったパスタやピザ、肉料理との相性が抜群だし、白ワインは、魚料理やシーフード、軽めの野菜料理と良く合いますもんね。
つまり、ワイン中に含まれるグルタミン酸は、単独では効果はないけれど、ちょっとあるワインは、相乗効果があるので、うまみを求める場合には、そういうワインがいいということになります。
一方、くどくなってしまうリスクもあります。あまりグルタミン酸が多く含まれていないワインの方がよいこともあるのかも?
じゃあ、ワイン中に含まれるグルタミン酸、測定してみたい~って思って測定しちゃいました。それは、また、後日、アップします(^_-)-☆
グルタミン酸の多い食品との実際のペアリング例
ワインの選び方や料理との組み合わせを工夫することで、グルタミン酸の相乗効果を最大限に引き出すことができると考えられます。例えば、長期間熟成された赤ワインや、酵母接触が長いシャンパンを選ぶと、うま味成分が豊富であり、他の食材との相性も良くなることが容易に想像できます。
実際、グルタミン酸の多い食品との実際のペアリングを考えてみるとこんなものがあります。
パルミジャーノ・レッジャーノと赤ワイン: パルミジャーノ・レッジャーノはグルタミン酸が豊富であり、赤ワインと合わせることで、チーズの濃厚なうまみが引き立ちます。
トマトとモッツァレラのサラダと白ワイン: トマトとモッツァレラはともにグルタミン酸を含み、軽い白ワインと合わせると、爽やかなうまみが増します。
グリルチキンとロゼワイン: グリルチキンのうまみとロゼワインの軽い酸味が調和し、全体の味わいが豊かになります。
なるほど、そうだったのか!!なんか、妙に納得できたりします。
うま味の相乗効果
うま味の相乗効果を引き起こす核酸には、以下のものがあります:
イノシン酸 (IMP, Inosine-5'-monophosphate):
主に魚や肉に含まれ、グルタミン酸との相乗効果が強いです。
グアニル酸 (GMP, Guanosine-5'-monophosphate):
主にキノコ類(特にシイタケ)に含まれ、グルタミン酸と結合することで、強力なうまみを引き出します。
アデニル酸 (AMP, Adenosine-5'-monophosphate):
一部の肉や魚に含まれ、グルタミン酸との相乗効果はIMPやGMPほど強くありませんが、うまみを強化します。
これらの核酸がグルタミン酸と同時に存在すると、うま味受容体がより強く活性化され、脳に送られる神経信号が強化されます。これにより、うま味の感じ方が増幅され、料理の風味が豊かになります。
結論
ワインには確かにうま味成分が含まれており、それが料理との組み合わせで相乗効果を発揮しているようです。ワイン単体ではうま味を強く感じることは少ないかもしれませんが、他のうま味成分を含む食材と組み合わせることで、ワインの風味が引き立ち、全体の味覚体験が向上することは十分考えられます。ワインと料理のマリアージュには、科学的根拠があったことが示されて、ちょっと嬉しいのでした (笑)
参考文献
Schmidt CV, Olsen K, Mouritsen OG. Umami synergy as the scientific principle behind taste-pairing champagne and oysters. Sci Rep. 2020 Nov 18;10(1):20077. doi: 10.1038/s41598-020-77107-w. PMID: 33208820; PMCID: PMC7676262.
この論文が掲載されているジャーナル:Scientific Reportsの評価について
Scientific Reportsは、ネイチャー・リサーチが発行するオープンアクセスの科学ジャーナルで、広範な科学分野にわたる研究を掲載しています。このジャーナルは、厳格なピアレビューを経て質の高い研究成果を発表することを目的としており、科学界で高い評価を受けています。また、インパクトファクターも高く、信頼性のある情報源として多くの研究者や専門家から認知されています。