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ワインにうま味はあるのか?
「このワインにはうま味があるだんよね~」と言いたくなるワインありますよね。でも、テイスティングチャートには、甘味、酸味、コク、果実風味、後味、などの項目がありますが、うま味の項目はありません。果たして、ワインにうま味は存在するのでしょうか?
うま味とは何か?
うま味は、1908年に日本の科学者池田菊苗によって発見された、五つ目の基本味です。グルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸などのアミノ酸やヌクレオチドによって引き起こされるこの味は、肉、魚、野菜、乳製品、そして発酵食品に多く含まれています。うま味は、料理に深みと豊かさを与え、他の味覚を引き立てる役割を果たします。
ワイン中のうま味成分
実は、うま味成分としてもっともよく知られるグルタミン酸がワイン中に含まれています。そう、味の素の成分です!
長期間熟成されたワインや酵母接触が長いシャンパンに多く含まれています。ただ、ワイン中のグルタミン酸の濃度は低く、ワインだけでは旨味があると感じるほどではありません。
人が旨味を感じられる濃度は、29~30 mg/100 mLと言われています。ワインに含まれるグルタミン酸はこの濃度に達していないため、明確なうま味を感じることはできません。
シャンパンのグルタミン酸と牡蠣のマリアージュ
iPS の研究などが掲載されるようなバイオ業界では名のしれたScientific report と言うジャーナルに シャンパンと牡蠣がなぜ合うのか?について研究された論文が掲載されました。
Umami synergy as the scientific principle behind taste‑pairing champagne and oysters
この論文のタイトルを見て、思わず小躍りしてしまいました(笑) 私は幹細胞研究者でiPS細胞についの論文を探していたら、この論文を見つけて、めちゃくちゃ嬉しくなっちゃいました。
この研究では、シャンパン中のグルタミン酸と、牡蠣に含まれるグルタミン酸とイノシン酸やグアニル酸が組み合わさることで、強力なうま味が生まれることが示されています。
具体的には、シャンパンと牡蠣の組み合わせにおいて、シャンパン中のグルタミン酸が牡蠣中の核酸(イノシン酸とグアニル酸)と合わさって、強い相乗効果を発揮します。口の中で豊かなうま味が感じられ、全体の味覚体験が向上すると、述べています。つまり、シャンパンと牡蠣を合わせて食べると旨さ爆上がりが証明されたのです!
シャンパン中のグルタミン酸:
シャンパンにはグルタミン酸が含まれており、その濃度は一般に1.4~7.5 mg/100 mLの範囲です。これは人が感じる事のできる旨味の最低値である味覚閾値を下回る値です。つまり、シャンパンだけ飲んでも、旨さは感じられないのです。
牡蠣中のうま味成分:
牡蠣には高濃度のグルタミン酸(約160~257 mg/100 g)と、イノシン酸とグアニル酸が含まれています。これらの成分は単独でも強いうま味を持ちますが、シャンパンと組み合わせると相乗効果が働き、旨さが爆上がりします。一般的には10倍から100倍に感じられると報告されています。
相乗効果の科学的メカニズム:
うま味の相乗効果は、グルタミン酸とイノシン酸が同時に味覚受容体に結合することで生じます。この結合により、神経信号が強化され、脳に送られるうま味の感覚が増幅されます。シャンパンの旨味と牡蠣のうま味成分が組み合わさることで、非常に豊かな味わいが生まれますのは、科学で解明されているのです。
つまり、ワイン中に含まれるグルタミン酸は多くないけれど、グルタミン酸のうま味を増強させる成分が入ってる料理と一緒に食べると、うま味増強するのです。マリアージュの大切が科学的に示されたということになります。
他の料理との相性
以上の事から、ワイン中のグルタミン酸が、うま味成分を含む料理と組み合わせることで、その相乗効果を発揮することは分かりました。
では、どんなお料理と合わせるといいのでしょう?
例えば、
トマトやキノコ、チーズなどのグルタミン酸を多く含む食材とワインを合わせることで、料理全体の味わいが深まることが考えられます。
実際、赤ワインは、トマトソースを使ったパスタやピザ、肉料理との相性が抜群だし、白ワインは、魚料理やシーフード、軽めの野菜料理と良く合いますもんね。
ワイン中に含まれるグルタミン酸は、単独では効果はないけれど、相乗効果があるので、うまみを求める場合には、10倍の相乗効果により旨味を感じられる濃度のグルタミン酸があるワインを選びたくなりますよね?
そこで!!
ワイン中に含まれるグルタミン酸、測定しちゃいました!!
結果はこちらです↓
グルタミン酸の多い食品との実際のペアリング例
ワインの選び方や料理との組み合わせを工夫することで、グルタミン酸の相乗効果を最大限に引き出すことができると考えられます。例えば、長期間熟成された赤ワインや、酵母接触が長いシャンパンを選ぶと、うま味成分が豊富であり、他の食材との相性も良くなることが容易に想像できます。
実際、グルタミン酸の多い食品との実際のペアリングを考えてみるとこんなものがあります。
パルミジャーノ・レッジャーノと赤ワイン: パルミジャーノ・レッジャーノはグルタミン酸が豊富であり、赤ワインと合わせることで、チーズの濃厚なうまみが引き立ちます。
トマトとモッツァレラのサラダと白ワイン: トマトとモッツァレラはともにグルタミン酸を含み、軽い白ワインと合わせると、爽やかなうまみが増します。
グリルチキンとロゼワイン: グリルチキンのうまみとロゼワインの軽い酸味が調和し、全体の味わいが豊かになります。
なるほど、そうだったのか!!なんか、妙に納得できたりします。
うま味の相乗効果
うま味の相乗効果を引き起こす核酸には、以下のものがあります:
イノシン酸 (IMP, Inosine-5'-monophosphate):
主に魚や肉に含まれ、グルタミン酸との相乗効果が強いです。
グアニル酸 (GMP, Guanosine-5'-monophosphate):
主にキノコ類(特にシイタケ)に含まれ、グルタミン酸と結合することで、強力なうまみを引き出します。
アデニル酸 (AMP, Adenosine-5'-monophosphate):
一部の肉や魚に含まれ、グルタミン酸との相乗効果はIMPやGMPほど強くありませんが、うまみを強化します。
これらの核酸がグルタミン酸と同時に存在すると、うま味受容体がより強く活性化され、脳に送られる神経信号が強化されます。これにより、うま味の感じ方が増幅され、料理の風味が豊かになります。
まとめ
ワインには確かにうま味成分が含まれており、それが料理との組み合わせで相乗効果を発揮しているようです。ワイン単体ではうま味を強く感じることは少ないかもしれませんが、他のうま味成分を含む食材と組み合わせることで、ワインの風味が引き立ち、全体の味覚体験が向上することは十分考えられます。ワインと料理のマリアージュには、科学的根拠があったことが示されて、ちょっと嬉しいのでした (笑)
参考文献
Schmidt CV, Olsen K, Mouritsen OG. Umami synergy as the scientific principle behind taste-pairing champagne and oysters. Sci Rep. 2020 Nov 18;10(1):20077. doi: 10.1038/s41598-020-77107-w. PMID: 33208820; PMCID: PMC7676262.
この論文が掲載されているジャーナル:Scientific Reportsの評価について
Scientific Reportsは、ネイチャー・リサーチが発行するオープンアクセスの科学ジャーナルで、広範な科学分野にわたる研究を掲載しています。このジャーナルは、厳格なピアレビューを経て質の高い研究成果を発表することを目的としており、科学界で高い評価を受けています。また、インパクトファクターも高く、信頼性のある情報源として多くの研究者や専門家から認知されています。