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10月のはじまりに


10月のはじまり。

夜風が心地よくなってどこか寂しさを帯びはじめた、秋の夜長とも呼べるこの夜に、ひっそりとエッセイを書いています。

わたしは、この季節が好きです。どの季節においても、お日さまの心地よい道を散歩することも、暑さが陰りはじめひぐらしがカナカナ鳴く夜も、白い息をはきながら手を擦り合わせることも、みんな好きですが、いちばんはやっぱりこの季節です。

10月生まれのわたしはというと、きっと金木犀の花たちも気配を消して、木々もだんだんと緑から赤や茶色に変わり始めた頃、夏が過ぎて冬が来るそのすこし前に、母の手に抱かれたのでしょう。
その光景を覚えてはいませんが、きっとはじめて吸った空気のことを、肌に触れた冷たい風のことを、今でも覚えているのではないかと思っています。これだけ好きなのですから。

毎年、そんなこんなで10月がくると嬉しくなりますが、悲しい思い出も多いのがこの季節だったりします。涙を落とした過去の連なりのことを思い出しては、落ち葉を踏みながらサクサクと歩くのです。身を守るようにすこし厚着をして、自販機で買った「あったか〜い」と書かれているものの、すこしぬるくなった飲み物を飲みながら。

過去に結ばれた悲しい思い出は、解けなくなった固結びみたいにずっと残り続けていて、きっとたくさんの人に同じような結び目ができていて。あったかいお風呂に浸かって、ゆるゆると解くことができたならいいのですが、大抵は自分で解くことができなくなってしまったもので。

それは誰かに手渡されたやさしさとか、大切な人がくれるやわらかな愛だとか、きっとそういうもので少しずつ解かれていくのだと思います。がんじがらめになってどうしようもできなくなった人も、きっと。

そうわたしは願っています。わたしはわたしの書いたものを読んでいる人の顔を見ることはほとんどないし、どこにも書いていないあなたの現実を知ることはできないけれど、あなたの結び目をすこしでも緩めることができたなら、と思って言葉を使っています。

「大丈夫だよ」と伝えても大丈夫じゃないこともあるでしょう、「なんとかなるよ」と言われてもなんとかならないことだってあるでしょう、現実なんてきっとそんなものです。

ただひとつ言えるのは、そんな現実のことを、たくさん考えているあなたは偉いです。逃げられるあなたは偉いです、でも逃げられないことだってあるから、その逆が偉くないわけではないです。断れるあなたも、断れなかったあなたも、どちらにしてもやさしくて偉いです。

悲しくなってしまう季節だから、同じように悲しく思ってしまう人のことを考えて言葉を書いてしまいました。まとまりのない文章ですみません…。

これから寒くなってくる季節ですから、なにか羽織るものを持って、あたたかい飲み物を飲んで、ぽかぽかにして過ごしてくださいね。体が冷えていると、心の調子もきっとつめたくなってしまいますから。

おうちに帰ったら、好きなものをかけながらあったかいお風呂に浸かってください。結び目をすこしだけ、その瞬間だけ、ゆるゆるにしてあげてくださいね。

ではまた、ここで会いましょう。
読んでくださって、ありがとうございました。

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