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この星のかけら

「ツートントン、ツーツー。」

この広い宇宙のなかで、その星の上にいるあなたに、この声が届いているでしょうか。モールス信号を使ってみましたが、意外と通じるかもしれないと思って話しかけています。

子どもの頃から、そういう空想をするのが好きでした。宇宙人はどんな言葉を話すのだろうという楽しい空想もしていましたが、ある時から果てしない宇宙のことを考えては怖くなって眠れなくなり、どこかで「宇宙の果てにはブラックホールがあるらしい」という話を聞いてから、ひと安心したことを覚えています。

2023.8.18-28「あなたのための星であること」にて

わたしは今、この星の上で息をしています。そしておそらく、これを読んでいるあなたも。たまたま乗り合わせた星の上で、似たような道を歩いた私たちは、この場所でたまたま交差したんです。きっと。

すこしだって先の見えない暗闇の中、果てしない宇宙が広がるように続くこんな日々の中で、あなたの灯す光に会えたんですから。

どんな道を辿ってきましたか。きっと悲しいことや苦しいことがたくさんあって、やっとここまで辿り着いたんでしょう。息をするあなたに出会えたことを、わたしはほんとうに誇りに思います。ただ一人のあなたが、生きてくれていてよかった。

2023.8.18-28「あなたのための星であること」にて

今回の展示をしようと決めたとき、ずっと考えていたのはわたしのこれまでのことと、あなたのこれまでのことです。どうしてここまで生きてこられたろう、どうしてあなたはわたしの言葉を読んでくれるのだろう。

これまで辛かったね。苦しみや痛みは誰かのものではなくあなたのものだから、誰がなんと言おうとここでは辛かったと言っていいんだよ。暗闇のなか生きようともがく、あなたみたいにやさしい人が生きやすい世界になるといい。

生きることはきっと、死を想うことだと思っています。
死ぬ前にこれだけはちょっとやっておきたい、身体を運びこの目で見たい景色がある。そんな風にして生きてきた昨日が続いて今日がやってきました。

一人ぼっちの夜を越えて、同じ一人ぼっちの夜を生きたあなたと、山上のベンチの上に共に座って昂る朝日を眺めるような気持ちでいます。

今日会えたこの夜が終わったら、きっとまた一人ぼっちの夜がやってくるのでしょう。その時はまた、あなたが見たこの記憶を読んでください。そこにわたしは実在する体を持たないけれど、たしかにここにいます。ずっと側にいるあなたの絶望や暗闇を、抱きしめてここにいます。大丈夫。

2023.8.18-28「あなたのための星であること」にて

「ツーツー、ぼくはここにいるよ。」

あなたの絶望のそばにずっと。
あなたが星めぐりの途中、道に迷ったときはこの音を辿って。
そこには美しく生き、美しく笑う、美しいあなたがいる。

今日会えたこの夜が終わったら、きっとまた一人ぼっちの夜がやってくるのでしょう。
その時はまた、あなたが見たこの記憶の本を読んでください。そこにわたしは実在する姿を持たないけれど、たしかにここにいます。ずっと側にいるあなたの絶望や暗闇を、抱きしめてここにいます。大丈夫。

生きてまた会いましょう。
きっと死んだ先だって会えるけれど、せっかくこうやってこの体で、この星で会えたんですから。その時には、それまで旅をした記憶の話を聞かせてください。

いつか死んでしまうあなたへ。
この星のかけらはいつだって、あなたのもとで輝いています。

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