『ブラック・ウィドウ』感想 最強家族のノンストップバトルムービー

 公開が伸びに伸びていたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)第24作『ブラック・ウィドウ』が遂に公開。主演は2010年公開の『アイアンマン2』からナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウを演じてきたスカーレット・ヨハンソン。本作初登場のナターシャの偽りの家族をフローレンス・ピュー、デヴィット・ハーバー、レイチェル・ワイズらが演じる。監督は『さよなら、アドルフ』(2012)のケイト・ショートランド。

あらすじ

 トニー・スターク/アイアンマンとスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカの対立によるアベンジャーズの分裂後、追われる身となったナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)。逃亡のさなか、彼女はロシアのスパイ養成プログラム「レッド・ルーム」で自身と同じく望まずしてスパイへと育てられ、幼少期にアメリカへの潜入任務のために偽りの家族として共に暮らしていたエレーナ(フローレンス・ピュー)と再会する。エレーナから自身が壊滅させたレッド・ルームがまだ密かに存続していることを知らされたナターシャは、レッド・ルームを壊滅させるために行動を開始する。

他のMCU作品に見劣りしない派手なアクションシーン

 宇宙を舞台にヒーローたちが大暴れするガーディアンズ・オブ・ギャラクシーや、超ハイテク技術で戦うアイアンマンなど、ド派手なキャラクターたちがひしめくMCU。その中において、ブラック・ウィドウの武器は超人的な体術に、幅広い武器の取り扱い、そして、卓越したスパイ能力と比較的地味である。本作はそんな彼女を主人公に据えていることから見て、地味な仕上がりになるのではと思っていたが、蓋を開けてみるとアクロバティックな殺陣に、白熱のカーチェイス、世界を股にかけた大冒険活劇と、他のMCU作品に引けをとらない非常に熱量の高い作品となっていた。むしろ、敵味方の騙し合いや駆け引き、隠密行動といった所謂スパイものらしい描写より、立ちはだかる困難を腕力でゴリゴリと解決していく展開の方が多く作品のテンションは割と高い。ハイカロリーなアクションシーンが連発される作品であるが、その点はさすがMCUという飽きさせないテンポ感のある見せ方がなされており、さらにこれもMCUらしく、一連の戦闘シーンでのキャラクターたちの物理的な位置関係や最終的なゴールを、観客に見失わさせない非常に洗練された映像作りがなされている。

魅力的なナターシャの"偽りの"家族

 本作では、かつて潜入任務のためにナターシャと偽りの家族として暮らしていた妹のエレーナ、父のアレクセイ、母のメリーナという3人のキャラクターが登場するが、この3人が皆、非常に魅力的に描かれている。エレーナはナターシャに対して、自分を置いてレッド・ルームから抜け出し、アベンジャーズとして華々しく活躍していたことに対する怒りを持ちつつも、それでも強い家族愛を抱いているという複雑ながら親近感の持てるキャラクター。最初はナターシャに対して敵意をむき出しにしていたエレーナが、戦いの中でナターシャとのわだかまりを超えて結束していく流れが非常に熱く痛快だ。また、エレーナがナターシャのいわゆる"スーパーヒーロー的な"戦闘スタイルを揶揄する下りが要所要所に盛り込まれており、クスリとさせてくれる。また、偽りの父アレクセイは本作屈指のコメディリリーフとして存在感を示している。ハードな作風のように思われる本作だが、実際は作品設定や本筋はシビアなものの、会話劇でシュールに笑わせてくれるシーンが多い。その笑いを一手に担っているのが、このアレクセイであり、彼が他の家族のメンバーと絡むことで化学反応的に笑いが巻き起こる。相当クセが強く、濃いキャラクターのアレクセイに対して、偽りの母メリーナは卓越した頭脳と戦闘センスを持った優等生キャラなので、キャラクターとしての面白みは若干薄いのだが、終盤の戦闘ではその万能ぶりを遺憾なく発揮してくれるため、作品のカタルシスに大きく貢献している。

男性からの抑圧を吹き飛ばしていく作品

 本作のヴィランは、全世界から優秀な少女たちを違法な手段で集め、洗脳を施したうえでスパイとしての訓練を積ませ、自らの手駒として操ることで世界を裏で牛耳るレッド・ルームの支配者ドレイコフ。本作はナターシャが彼の手から洗脳された女性スパイたちを解放しようと奮闘する物語である。このことから見て、本作の大きなテーマは男性支配からの脱却であるのは誰の目にも明らかであろう。MCUにおける初の女性ヒーロー映画『キャプテン・マーベル』では「男性が勝手に決めたルールにしたがって、女性が不利な戦いをする必要はない」という主張が痛快に描かれていたが、本作でのナターシャたちの戦いもこれに連なるものと言えよう。
 それに加えて、ナターシャたちの偽りの父であるアレクセイもこのテーマを担っている。父親として娘であるナターシャとエレーナに、上から目線で説教をたれようとしたり、セクシャルな話題にズケズケと踏み込もうとするたびに、アレクセイは強烈に拒絶される。また、スーパーソルジャーとして超人的な身体能力を持つという設定にも関わらず、アレクセイは作中でこれといって目立った戦果を上げることはない。本作はマッチョイズムと父性は別だと、一つ一つのケースにNOを突きつけていく作品になっているように思われる。

総括

 とにかく全編を通して、ナターシャのかっこよさがバチバチに決まっており、本作初登場のナターシャの偽りの家族たちも全員しっかりとキャラ立ちしていて非常に愛おしい。少し難解な設定をストーリーの中でスマートに理解させつつ、さらりと伏線も回収し、テンションの高いアクションシーンをガッチリと盛り込む、質の高い作品作りの手腕はさすがのMCU印といったところ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)で戦死してしまったことから、ナターシャの活躍は本作で見納めであろうと思われるので、MCUファンは本作で彼女の最後の勇姿をしっかりと目に焼き付けよう。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?