2021年10月公開新作映画感想まとめ

護られなかった者たちへ

 東日本大震災と生活保護をテーマとした作品。震災も大きなファクターではあるものの、どちらかというと生活保護の方が作品全体のテーマに占めるウェイトは大きい。

 宮城県内で起こった連続殺人事件の真相が、容疑者として捜査線上に浮上した青年・利根泰久の2011年震災直後から2020年までの足取りと共に徐々に明らかにされていく。利根を演じる佐藤健の演技が素晴らしく、過酷な生い立ちゆえに攻撃的で不器用でありながら、実は内に情の深さを秘めている複雑な人間性を持ったキャラクター像に確かなリアリティを与えている。

 残念な点は本作の主題である生活保護制度について、生活保護申請者や生活保護受給者の側からしか物語が描かれておらず、生活保護を支給する自治体側の心理がほとんど描かれていない点である。生活保護問題をせっかくメインテーマに据えたのだから、受給する側と支給する側の両側面から描き、それぞれの主張をぶつけ合うことでより深くテーマを掘り下げてほしかったし、その方が「生活困窮者が生活保護を受給することは当然の権利である」という本作の主張により厚みが出たと思われる。極端なことを言うと、本作におけるミステリー要素がこのメインテーマを語るのを邪魔している感すらあるので、謎解きは無くても良かったのではないかと思う。

 上記のような不満はあるものの、「生活に困窮したら躊躇わずに生活保護を受給してほしい」という本作の一番のテイクホームメッセージは、嫌というほど胸に刺さるので、観る価値は十二分にある作品であるし、広く観られてほしい作品である。

キャッシュトラック

 本作を端的にまとめると「やたらめったら強いジェイソン・ステイサムが悪党どもを片っ端から撃ち殺していく話」。それ以上でもそれ以下でもない。

 本作の良いところはジェイソン・ステイサムの気持ちいいほどの無敵ぶり。ひとたび戦闘のスイッチが入れば、卓越したガンテクニックと格闘術、さらには相手の動きを読んだ巧みな戦法で、悪漢たちを次々に迷いなく撃ち殺していく。クレバーで冷酷で、しかし、時として泥臭いジェイソン・ステイサムの血みどろの戦いを十二分に堪能できる。

 ただ、ステイサムがこのように完全無欠の殺人マシーンがゆえに、一喜一憂するような物語上の起伏は本作には全くと言っていいほどない。物語の発端となった事件と最終決戦の間を淡々と繋げたストーリーが、裏切りもどんでん返しもなく進んでいき、「まぁ順当に行けばそうなるでしょうね」という結末があっさりと訪れて終わる。

 本作に乗れるかどうかは、ジェイソン・ステイサムの血なまぐさい戦いと裏社会の陰惨な描写で、どれだけテンションを上げられるかにかかっており、観る側の好みで評価はだいぶ分かれそうだ。

アイの歌声を聴かせて

作品のトータルバランスが非常に素晴らしく、派手さはないが丁寧で暖かみのある作品。

 作品の大筋は、転校生のロボット少女・シオンに主人公のサトミたちが振り回されながら、彼女の正体をなんとか隠そうと奮闘する中で徐々に友情を育んでいくという流れ。ストーリー自体は王道で真新しさは無いのだが、主人公・サトミたちの成長とシオンの謎を絡めた物語がとても丁寧に積み上げられていくため、クライマックスでしっかりと涙腺を緩められてしまう。

 主人公である5人の高校生たちが全員良い子で、青春もので定番のクセの強いキャラは出てこないが、各々の心情描写が丁寧で5人それぞれがとても人間臭く愛らしく描かれており物足りなさはない。そして何より、AIであるシオンがキャラクターとして非常に魅力的で、序盤で「ん?」と思った人でも最後まで見るとしっかり魅了される巧みな作品作りがなされている。

 作品のメインテーマにAIが据えられているものの、本作におけるAI描写ははっきり言ってかなりファンタジー寄りであり、根幹の設定や終盤の展開はかなり力技である。しかし、主人公のサトミの家や彼女たちが通う学校の少し近未来な描写にはしっかりとリアリティがあるため、この世界の技術の延長線上にシオンというAIがいるという説得力があり、作品全体として観たときに違和感はあまりない。また、作品として語りたいゴールとそこへの導線がしっかりしているので、「この作品はこういう作品なのだ」とすんなり受け入れられるという面もある。

 本職声優の方々の演技は当然ながら流石であり、主人公・サトミを演じる福原遥も声優経験が豊富なだけあって安定感のある演技を見せている。その中で、準主役のトウマの声を当てている工藤阿須加が他のキャストに引けを取らないアニメ声優初挑戦とは思えぬ演技を見せており、気が弱いが芯のしっかりある少年をしっかり演じきっている。そして何より、メインヒロインのシオンを演じる土屋太鳳の声の演技が、天真爛漫でありながらどこか自動音声感のある無機質な音が薄く乗っているような、役に非常にマッチしたもので、よくぞこのキャスティングをしたと拍手したいレベルである。この演技が特にクライマックスで効いてくるのだが、ネタバレになるので触れまい。さらには劇中歌を4曲も担当する八面六臂の活躍を見せており、感嘆の一言。

 最初に述べた通り、派手さや斬新さのある作品ではないが、1つ1つのピースが非常に丁寧に組まれており、暖かみのある優しい作品になっているため、特に日常に疲れている人には強くおすすめしたい作品となっている。

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