『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』感想 あざとく正当進化したパート2
今週は『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』を鑑賞。ビアトリクス・ポター原作の同名児童書を原作とした『ピーターラビット』(2018)の続編。出演は前作から続投のドーナル・グリーソン、ローズ・バーンほか。監督も前作同様、ウィル・グラック。前作で活躍したピーターラビットたちに加え、ロンドン暮らしのウサギのバーナバス、猫のミトンとトム、ネズミのサムエルなど新キャラクターも登場する。
あらすじ
ピーターラビットたちは前作での抗争を経て、トーマス(ドーナル・グリーソン)・ビア(ローズ・バーン)夫妻と平和に暮らしていた。ある日、ピーターたちを題材にした絵本が大手出版社から出版されることになったビアは、ピーターたちとともに大手出版社のある都会の街へ出かけ、そこでピーターは亡き父の昔の友人だと語るウサギのバーナバスと出会う。ピーターは、野良の動物たちとともに地下組織を結成し、人間から食料を強奪して生きるバーナバスに父の姿を重ね、憧れを抱いていくが......。
自身のウリがしっかり分かっている続編
本作の感想としては「前作のどこがウケたをよく理解して作ってあるなぁ」という一言に尽きる。私が考える前作がウケた要因は以下の4点。
1)動物たちの可愛らしく毒のある掛け合いや小ネタ
2)破天荒なドタバタアクション
3)作品の破天荒さに反して、しっかりしたストーリー
4)トーマス・マグレガーさん
本作もこの4ポイントがキッチリ盛り込まているので、前作を気に入ったファンなら本作もバッチリ満足できるようになっている。いわば、自分の良さをよ〜く分かった、良い意味であざとい続編なのである。今回はこれらの点に着目して、本作の感想を語りたい。
1)前作からさらにキャラ立ちした動物たち
主人公のピーターラビットと彼の家族の4匹のウサギたちのみならず、湖水地方の数々の動物たちも前作から引き続き続投しており、今作でもテンポの良い掛け合いを見せている。個人的にはピーターの3匹の妹フロプシー、モプシー、カトンテールがお気に入りだ。前作でもしっかりそれぞれがキャラ立ちしていた彼女たちだが、本作ではさらにそれが推し進められている。特に、砂糖菓子中毒というヤバい属性が付与されたカトンテールは、児童文学原作の映画とは思えぬぶっ飛び具合。湖水地方の動物たちも大活躍で、特にハリネズミのティギーおばさんは、前作を見ていればニヤリとできる活躍の場面が用意されている。また、前作で印象的だったニワトリも今作でも要所要所で笑いを提供してくれている。
特に本作は前作に比べて、人間パートの時間を削って、動物たちの掛け合い、特にピーターとバーナバス一派との掛け合いの時間を増やしている。そのため、前作ではピンポイント登板で笑いをかっさらっていくパターンの多かった脇役の動物たちが、よりストーリーの中心に置かれており、前作よりも動物たちの活躍を堪能できるようになっている。
2)ポイントは絞られているが、爆発力の高いアクション
今作も前作同様破天荒なアクションが展開されるが、このアクションに関しては前作に比べてボリュームは落ちているような印象を受ける。というのも、本作は前作と比較して本筋のストーリーをしっかりと進める時間が長いので、アクションシーンはポイントポイントに絞られているのだ。ただ、それぞれのアクションシーンは前作同様、アイディアに満ちたものになっていて見ごたえがある。中でも中盤のアクションシーンは、ケイパー映画要素とバカバカしいドタバタが組み合わされていて面白い。そして何より、ネタバレ回避のため内容については触れないが、終盤に前作をゆうゆうと超える、あまりにも荒唐無稽でぶっ飛んだ大冒険活劇が用意されているので、もうこの一連のシーンだけで大満足できる。
3)前作より洗練されたストーリー
前作はピーターとトーマスのエクストリームな抗争をずっと描いておきながら、最後にスッと「自分勝手だったピーターが少しだけ大人になる」という結末に落とし込むというアクロバティックなストーリーテリングがなされていたが、本作は「ピーターがトーマスとお互いを家族と認め合う」というストーリーを全編を通して割とストレートに進める構成になっている。物語としては前作よりも洗練されて観やすいものになっているが、その反動で前作に漂っていたカオスな雰囲気はだいぶ鳴りを潜めているので、そういう意味ではちょっとお利口さんになってしまったようにも思う。
また、前作ではトーマスとビアの2人が距離を少しずつ縮め恋仲になっていくという人間パートのドラマが、そのままピーターのトーマスへの憎悪を掻き立ているという物語構造になっていたので、人間パートと動物パートのドラマがうまく絡み合っていたが、本作では人間サイドのドラマと動物サイドのドラマが乖離してしまっているので、話が人間パートに移ると若干興味が削がれる部分があり、その点は残念なところだった。とは言え、前項でも述べた最後のハチャメチャ展開でこの残念さもどこかへ吹っ飛んでいくので、トータルで見ればそこまでの不満でもない。
4)より愛されキャラになっていくトーマス・マグレガー
前作の面白さの半分を担っていたのがピーターたち個性豊かな動物たちだとすれば、残り半分を担っていたのは間違いなくピーターの好敵手トーマス・マグレガーであった。本作では前項までに述べた種々の事情でトーマスの登場時間自体はだいぶ抑えられているものの、限られた時間で彼の魅力は存分に発揮されている。彼はとにかく醜態を晒せば晒すほど、ひどい目に合えば合うほど輝くキャラクターであるが、今回も少ない時間でしっかり情けない姿を見せてくれる。特に今作ではなんでもないシーンでも重力を無視するように気前よく吹っ飛ばされているので、スタッフも彼の扱い方を心得ている。また、ただただ面白キャラで終わるのではなく、前作を踏まえた彼の成長もしっかりと描かれており、ピーターの理解者としての頼もしい面も見せてくれるので、ファンとしてはさらに彼のことを好きになってしまう。前作もそうであったように、やはり、この映画ピーターラビットシリーズは「ピーターとトーマスの物語」なのである。
総括
前作のウケた部分はしっかり踏襲し、それでいてちょっと前作のアクは抜いたような印象の本作。中盤くらいまでは前作より少しパワーダウンしているように思えるが、終盤で前作を軽々上回る超展開で爆笑の渦に巻き込んでくれるので、トータルでは今作も大満足の出来だ。本作で、これからピーターたちが宇宙に行こうが、ゾンビと戦おうが受け入れられる土壌を作ってしまったように思うので、この調子でバカバカしい方向に突き抜けながら、シリーズ化していってくれると嬉しいなぁと思うところだ。