【ドラマ感想】『ウルトラマンブレーザー』 ★★★★☆ 4.1点

 地球内外から怪獣たちが出現し、人々の生活を日常的に脅かしている地球。そんな怪獣たちを討伐すべく結成された地球防衛隊の隊員ヒルマ ゲントは、怪獣バザンガの掃討作戦中に怪獣たちを打ち払う光の巨人・ウルトラマンブレーザーと一心同体となる力を得る。自身が得た力に困惑する中、ゲントは地球防衛隊内に新設された特殊部隊である特殊怪獣対応分遣隊SKaRDの隊長への就任を要請される。出来たばかりの新設組織の隊長として、そして光の巨人ウルトラマンブレーザーとして、ゲントは怪獣たちとの戦いに身を投じていく。



 2006年放送の『ウルトラマンメビウス』から長いTV放送休止期間を経て、2013年に『ウルトラマンギンガ』が放送開始されて以降、この『ギンガ』に連なるウルトラシリーズの作品群は「ニュージェネレーションヒーローズ」と呼称されており、本作『ウルトラマンブレーザー』はこのシリーズの11作品目の作品となっている。

 ニュージェネレーションシリーズ開始以前の段階ではいわば消滅寸前であったウルトラシリーズを再度復活させるため、ニュージェネレーションシリーズでは様々な新しい取り組みがなされてきており、これらの積み重ねによってニュージェネレーションシリーズはそれ以前のウルトラシリーズになかった個性を獲得し、現在の人気を獲得するに至っている。

 大きなターニングポイントを挙げるとすると、「インナースペース」と呼ばれるウルトラマンの体内のコックピットのような空間を描写することで、変身者が変身アイテムを操作する演出を導入することが可能になり、これによって玩具と作品の連動を強化することに成功した『ウルトラマンギンガ(2013)』。作品全体を通して暗躍するヴィランと呼ばれる登場人物を配置し、主人公とヴィランとの戦いでシリーズの縦軸を牽引する物語形式を定着させた『ウルトラマンオーブ(2016)』。過去のウルトラシリーズとの繋がりを積極的に物語に組み込み、ウルトラシリーズのユニバース化を推し進めた『ウルトラマンジード(2017)』や『ウルトラマンタイガ(2019)』などが挙げられるだろう。

 こういった取り組みの甲斐あって、ウルトラシリーズは現代の時勢にマッチした新たなシリーズとしての”型”を作り出すことに成功し、その人気を盤石なものとしつつある。しかし、本作『ウルトラマンブレーザー』ではこういったここ10年で作り上げられてきた様々な型を意図的に外した作品づくりがなされている。



 本作『ウルトラマンブレーザー』における「型外し」について列挙すると、以下の通り

1)シリーズを牽引する黒幕やヴィランが登場しない。(V99と呼ばれる謎の地球外生命体位の存在は作中を通して仄めかされるが、従来のヴィランとは大きく立ち位置が異なる)

2)近年のウルトラシリーズに恒例のフォームチェンジが廃止されており、パワーアップも極限まで廃されている。

3)過去のウルトラシリーズとのつながりが全くない

4)主人公を含めた主要登場人物たちの人間ドラマが物語の縦軸に組み込まれていない。

 このように本作では一目で容易に分かるほどにここ10年での”お約束”が廃されている。では、これらの施策によって浮いた尺や話数が何に当てられているかというと、その全ては怪獣の描写に注ぎ込まれている。

 本作ではウルトラマンのパワーアップ描写や登場人物たちの人間ドラマが大きく削られているがゆえに、ウルトラマンもSKaRDの面々もいわば狂言回しとしての役割に徹しており、毎話毎話その回で登場する怪獣たちの魅力をいかに引き出すかに作劇のエネルギーが注がれている。この作品バランスは、主要登場人物の人間ドラマが希薄で、怪獣を中心とした一話完結のレギュラードラマで構成されていたシリーズ第一作の『ウルトラマン(1966)』が感覚としては近く、ある種現代的なアップデートが施された原点回帰と捉えることもできるだろう。

 過去作の人気怪獣の再登場が多かったここ10年の傾向に反して、本作では10体以上の新怪獣を投入しているのだが、本作でのこの”怪獣ファースト”の取り組みが功を奏し、どの怪獣も強く印象に残るキャラクターとなっている。

 毎話新怪獣を登場させるのはさすがに難しかったのか、何度か同じ怪獣が再登場することはあったものの、本作ではそれを逆手に取り、初登場の時点では判明していなかった怪獣の生態が再登場の際に明らかになるといった細かな仕掛けが施されており、こういった点も非常に素晴らしかった。甲虫怪獣タガヌラーや月光怪獣デルタンダルなどは特にこういった丁寧な作劇のおかげでかなり印象に残る怪獣となっている。

 また、登場人物たち一人ひとりが優秀な狂言回しであるがゆえに、各話のゲストキャラクターの描写に注力した話作りが可能となっており、1話1話の完成度も非常に高い。地球の音楽を愛してしまった侵略宇宙人の悲哀を描いた第9話「オトノホシ」や、星々を渡り歩き怪獣の亡霊を除霊して回る宇宙人を描いた第17話「さすらいのザンギル」などはシリーズの歴史に残る話であったように思われる。



 前述の通り、本作では毎話現れる怪獣にSKaRDの隊員たちがどう対処していくかに力点が置かれており、登場人物たちの人間ドラマはそこまで深く描かれることはない。ただ、では人物描写が希薄なのかと言われると、そんなことはなく、SKaRDの隊員たちの人となりを短い尺で的確に描くことに成功しており、人物描写はむしろ豊かであったと言えるだろう。

 過去シリーズでは人間ドラマに時間を割いた結果、その回に登場する怪獣の魅力を表現するのに尺を使えなかったような回が多く散見されていたが、本作では怪獣を魅せつつ、並行して登場人物を深掘りするという作劇が高い精度でなされている。特に怪獣の専門家である副隊長のナグラ テルアキの矜持と葛藤を描きつつ、地底甲獣ズグガンの恐ろしさを強く印象付けた第20話「虫の音の夜」は非常に秀逸な出来である。

 確かなリーダーシップと柔軟なトラブル対応力でチームを引っ張るゲント隊長、冷静な判断力でチームを支えるテルアキ副隊長、ずば抜けた諜報能力と飄々とした性格、そしてふとしたときに見せる影が目を引くエミ隊員、身体能力に秀で、真面目な性格のアンリ隊員、メカオタクで人懐っこいヤスノブ隊員。その一人一人のキャラがしっかりと立っているからこそ、彼らが毎話現れる個性的な怪獣にいかに対処していくかが面白いのである。ホストに魅力がなければ、ゲストも立たないというものであるが、本作ではこの両軸をしっかりと立たせることに成功している。



 また、野性味溢れるウルトラマンという新しいウルトラマン像を確立したブレーザーのキャラクター造形にも着目したい。巻き舌のような独特な発声で雄叫びを上げ、怪獣を威嚇する姿。前傾姿勢で怪獣と対峙し、飛び跳ねながら荒々しく戦うファイトスタイル。そして、戦いの前後で儀式めいた舞を踊る狩人のような振る舞い。そのどれもが約60年で創造されてきたどのウルトラマンとも異なっている。

 作品ごとに違いはあれど、ウルトラマンはシリーズ全体として”神”のような存在として描かれてきたが、ブレーザーは神は神でも神獣という方が感覚的には近い。これまでのウルトラマン像とは一線を画す高潔で畏怖を感じさせる存在感を発しつつも、可愛らしさやユーモアには確かなウルトラマンらしさもあり、まだこんな切り口のウルトラマンの描き方があったのかと唸らされてしまった。



これまでのシリーズから大きく方針を変えた作品づくりがなされているがゆえに、もちろん気になる点も多々あるし、ウルトラマンという作品のフォーマットの難しさが垣間見えた点も多い。

 例えば、「防衛隊がどんなに頑張っても最後の手柄はウルトラマンがあげてしまう問題」。本作では特にSKaRDによる怪獣の生態の調査や討伐のための作戦立案・実行が丁寧に描かれるがゆえに、結局は彼らがどんなに頑張っても最終的には横からやってきたウルトラマンが怪獣を退治し、問題を全部解決して去ってしまう歯がゆさが分かりやすく表面化してしまったように思われる。この物語上の構造的な問題はほとんどのウルトラシリーズが抱えているのだが、特に本作ではSKaRDの防衛戦力がアースガロンというキャラクター性の強い対怪獣用ロボットであったのも相まって強く出てしまった形だ。

 また、レギュラードラマとしての完成度を高めた結果、縦軸の物語であるV99をめぐる物語の畳み方が急ピッチになってしまった感も否めない。特に最終話でのV99との対話があまりにもスピード解決になってしまったように思われるため、話をまとめ始めるタイミングがせめてあと1話早ければよかったのではないかと思われる。



 インナースペース描写を導入した『ギンガ』、ヴィラン制を導入した『オーブ』、対怪獣用戦闘ロボットを導入した『Z』など、ここ10年の中でウルトラシリーズには多くのエポックメイキングな作品が存在したが、本作『ウルトラマンブレーザー』もその1つとなる作品ではないかと思われる。

 ただし、シリーズに新たなアイディアを導入した上述の作品群と違い、『ブレーザー』の特徴は「新規怪獣の大量投入」、「怪獣を中心に据えた話作り」、「ヒーローのパワーアップという方向の販促を削ぎ落としたシリーズ展開」など、1つ1つはこれまでも検討されていたであろうけれども、多くの制約で導入されてこなかった施策を思い切って導入したところにある。

 その全てが上手くいったわけではないが、この思いっきり振り切った施策のおかげで、1つ1つの要素の何が受けて何が受けないのかという実験的データが多く得られたシリーズとなったのではないかと思われる。本作で得られた多くの知見がこれからのウルトラシリーズの豊かな肥やしとなっていくであろうことが予想され、そういった意味でこれから5年10年とシリーズが続いていった際、振り返ったときに『ブレーザー』がウルトラシリーズの大きな歴史の転換点となっている可能性は大いにあるだろう。そして、そういった強い実験的作品の側面を持ちつつ、1つの作品として高い完成度で本作を世に送り出したスタッフの手腕には賞賛を送りたい。

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