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『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』感想 とてつもなくメタなシリーズ讃歌

 今週は現在テレビ放送中の『仮面ライダーセイバー』と『機界戦隊ゼンカイジャー』のクロスオーバー作品『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』を鑑賞。出演は内藤秀一郎、駒木根葵汰らの仮面ライダーセイバー、機界戦隊ゼンカイジャーのメインキャストに加え、物語の鍵を握る謎の少年役に鈴木福、世界滅亡を企む怪人アスモデウス役に谷田歩。さらに本郷猛/仮面ライダー1号として藤岡弘、も出演する。監督は仮面ライダー、スーパー戦隊両シリーズを数多く手掛けてきた田崎竜太。

あらすじ

 世界に危険を及ぼす禁書が収められた書庫『アガスティアベース』。この書庫に封印されていた歴代仮面ライダーと歴代スーパー戦隊の物語が記された禁書が、衛士アスモデウスによって解放されてしまった。これにより全ての物語が混ざり合い、現実と物語の境界が曖昧になったことで世界は崩壊へと進んでいく。世界崩壊の影響で「八犬伝」の物語世界と「西遊記」の物語世界にそれぞれ飛ばされてしまった仮面ライダーセイバー/神山飛羽真とゼンカイザー/五色田介人たちは、それぞれの物語世界に同じように飛ばされてきた歴代仮面ライダー・スーパー戦隊のキャラクターたち、そして、漫画家を夢見る謎の少年・章太郎とともに、世界崩壊を食い止めるための戦いに身を投じていく。

このうえなくメタなシリーズ讃歌のストーリー

 仮面ライダーシリーズとスーパー戦隊シリーズのクロスオーバー作品は、これまでにも『スーパーヒーロー大戦』(2012)、『スーパーヒーロー大戦Z』(2013)、『超スーパーヒーロー大戦』(2017)と3作制作されているが、純粋なクロスオーバーだったこれらの作品と本作とでは毛色が違う。この違いを生み出しているのが鈴木福演じる謎の少年だ。チラッとでも予告を見ればすぐに分かると思うのだが、この少年の正体は若き日の漫画家石ノ森章太郎。仮面ライダー・スーパー戦隊両シリーズの原作者だ。本作も中盤までは仮面ライダーセイバーと機界戦隊ゼンカイジャーのクロスオーバーによるお祭り作品として進行していくのだが、中盤からは仮面ライダーセイバー/神山飛羽真と石ノ森章太郎少年の2人に物語がフォーカスしていくことによって、かなりメタフィクション性の強い方向へストーリーが展開していく。
 中盤からはこの2人のぶつかり合いを通して、1)漫画家石ノ森章太郎の作家性のルーツ、2)自分が物語の登場人物だと知ってしまった飛羽真の葛藤、の2つのテーマが絡み合ったストーリーが展開し、最終的には、3)仮面ライダー・スーパー戦隊両シリーズへの讃歌、へと繋がっていく。未見の人からすると訳が分からないだろうが、実際そうなっているのだから仕方がない。正直、1)も2)もお祭り映画の中で片手間に扱えるテーマではないので、かなり尺不足な印象が拭えないものの、思いも寄らない方向に作品がスイングしていく面白さはある。正直、1)のテーマはかなり取ってつけた感が強いのだが、監督の田崎竜太氏がパンフレットで述べているように、石ノ森章太郎周りの展開については氏の短編漫画『青いマン華鏡』をベースにしている部分が強く、この作品の内容を知っていると案外考えて作られている部分も多いことに気付く。そういう意味では、本作の補完として『青いマン華鏡』を事前に読んでおくといいかもしれない。そういった内容は映画内で描いてくれよとも思うが。
 最終的には3)のテーマに帰着する本作。特に終盤の「仮面ライダーもスーパー戦隊も、同じようなテーマを繰り返し語り直しているだけの縮小再生産だ」と主張する敵に対して、「縮小再生産だったら、こんなにファンに支持されて何十年もシリーズを存続させられていない!」とヒーローたちが突っ返す展開が印象的だ。個人的には仮面ライダー・スーパー戦隊両シリーズとも素晴らしい長寿特撮ドラマシリーズだとは思うのだが、このようなシリーズ讃歌は第三者がするから良いのであって、本家がそれを主張するのはちょっと手前味噌すぎるように思う。特にシリーズへのアンチ的意見を敵に言わせて、それへの言い訳をヒーローたちに言わせるというのは、作品作りの姿勢としてダサいかなと。このテーマについては、2019年公開の『劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzer』が作品的には非常に近いのだが、脚本のカオス具合が強かった『劇場版ジオウ』に対して、本作はなまじ脚本がまとまっている分、ちょっと鼻につく感じが強く出てしまっているように感じる。

クロスオーバーものとして良い部分もあり、残念な部分もあり

 スーパーヒーローものでクロスオーバーと言うと、全ヒーローの揃い踏みというのが最大の醍醐味であるが、それで言うと本作終盤のヒーロー集合シーンはなかなかに傑出した出来である。『仮面ライダーセイバー』、『機界戦隊ゼンカイジャー』の登場ヒーローたちが存分に名乗りを上げて見栄を切り、集合した歴代仮面ライダーと歴代スーパー戦隊たちをしっかりカメラでなめ、これでもかとヒーロー集合の絵を堪能させてくれる。ありきたりと言えばありきたりだが、こういうお約束は外さず、しっかり守ってくれることがジャンルものとしては大事なことだ。
 一方、その後の敵味方入り乱れる大乱闘シーンはちょっといただけない部分が目立つ。というのも、戦闘中の歴代のヒーローたち全員に少しずつセリフが割り当てられているのだが、このセリフのチョイスが劇中の名言や主題歌の歌詞を雑に引用してきたようなものになっているし、そのうえ、明らかに当時の演者と声質の違う俳優が吹き替えており、かなり興醒めな雰囲気になっている。演者が違うことを責めるつもりはないが、こうなるのなら別に無理に喋らせなくても良かったのではないかなと思う。

藤岡弘、の重厚な演技に震える

 多数のキャストが登場し、それぞれがそれぞれのキャラクターの持ち味を存分に発揮しているため、クロスオーバーものとして楽しい作品になっているのだが、そのキャストたちの中でも別格の雰囲気を醸し出しているのが本郷猛/仮面ライダー1号を演じる藤岡弘、だ。出番は非常に限られているものの、本作における非常に重要なシーンに出演しており、このシーンにおいて、おそらく世界中で藤岡弘、にしか出来ないであろう貫禄の芝居を披露している。普通の俳優がやるとむしろ白々しくなってしまうようなクライマックスのあるシーンが、一転して目頭が熱くなるような熱いシーンになっているのは、『仮面ライダー』のキャラクター本郷猛と俳優 藤岡弘、のパブリック・イメージの境界線が限りなく曖昧で、両者が渾然一体となって混じり合っているからこそ。藤岡弘、氏がヒーロー俳優として、他の誰にも到達できない境地に至っていることを思い知らされる。

総括

 作り手たち自身による仮面ライダー・スーパー戦隊シリーズへの讃歌といった趣きの本作。楽しいクロスオーバーからコアな作品論にシフトしていくので、観ていてギョッとするが、シリーズのファンとして一見の価値はあるかと。とはいえ、個人的には手前味噌のようにも感じるので、このアプローチの映画作りはしばらくは控えてほしいかなと思う。加えて、とにかく藤岡弘、氏が必見なので仮面ライダーファンはぜひ観に行ってください。

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