【映画感想】『隣人X 疑惑の彼女』 ★★☆☆☆ 2.4点
故郷の惑星の紛争により地球へとやってきた地球外生命体Xを難民として受け入れることとなった日本。Xは人間への擬態能力を有し、以前から社会に溶け込んでいることが発表されたことから、日本社会は疑心暗鬼に陥る。X絡みのスクープを狙う雑誌社に勤める記者の笹憲太郎はX疑惑のある女性・柏木良子の調査を命じられる。スクープのために笹は柏木へと近づくが、徐々に彼女に惹かれてしまう。
「もしこの社会に人間そっくりに擬態した宇宙人が紛れ込んでいたら……?」というかなりSF性の強い切り口で始まる作品ではあるものの、この設定を社会シミュレーション的に深めていったり、人間と地球外生命体との種族の違いに科学的に切り込んでいったりといったアプローチはほとんどなされないため、作品全体の雰囲気としてはSF感はかなり薄めの作品となっている。
どちらかというと、これらの設定は主人公である雑誌記者の笹が取材対象の柏木へと近づくための舞台設定であったり、彼女に対して真意を明かせぬままに関係を深めていってしまっていることへの苦悩のためのスパイスであったりといった使われ方がなされており、作品のテイストとしてはヒューマンドラマやロマンスの色合いの方が強い。
さて、本作ではこのヒューマンドラマに絡めていくつかのテーマが語られるのだが、このどれもが薄いというか、改めて語るほどのことでもないという点が痛いところ。例えば、地球外生命体Xという存在を通して、現実世界での難民問題や外国人差別が本作では描かれている。これはメタファーとしてほのめかしているわけではなく、作中ではっきりとXのことを宇宙から来た難民であると明言しているので、かなり直接的に描かれている。そのうえで、Xは人間への擬態能力を有し、人間社会に紛れ込んでいることが明かされたことから、日本社会はXへの反発や疑心暗鬼に襲われ、この社会情勢に対し、主人公の笹は思い悩むことになる。
……のだが、実際にそのような事態が起きた場合、社会が拒否反応を示すのは当たり前であるし、それは至極真っ当な反応である。繰り返しになるが、本作に登場する地球外生命体Xは現実世界における難民の直喩なのだが、現実世界において難民を受け入れている国は数多くあるが、こんな受け入れ方をしている国はいない。どんな事情があっても、他国からの難民がいつの間にか自分たちの国に潜伏していたとなれば、それはその国の国民が拒否反応を示すのは当たり前だし、拒否するのは当然の権利であろう。もしそんな受け入れ方を国が決めたとしたら、それは自国民から強く批判されて然るべきだ。したがって、この問題は、主人公や他の登場人物が思い悩むまでもなく、「国のやり方がおかしい」の一言で済んでしまう話なのである。
一方、笹が勤務する雑誌社の編集部では人間社会に潜伏しているXを探し当て、その素性をスクープとして公開しようと企てる。そして、笹も編集部の一員として、その計画に加わるのだが、X疑惑をかけられた柏木との交流を経て、自身が行っている取材活動へ疑問を持ち始める。
……のであるが、これにしても、この取材活動が重大な人権侵害であるのは始めた時点で分かり切っていることである。例えば、Xに国家侵略の意図があるとの情報があり、それを明らかにしようとする、といった動機で取材活動を進めるのであれば、まだ話は分かるのだが、ただ平穏に暮らしている敵意のないXを突然衆目に晒すことが人道上おかしいのは議論するまでもない。責められるとすれば、前述の通り、X個人ではなく日本政府なのは明らかである。
もちろん、そういった人々の不安を煽って飯の種にするのが、週刊誌というものなので、週刊誌がそういった特集を組むのはまだ分かるのだが、だとすれば、それに対し思い悩む笹に対して、物語開始時点で数年雑誌編集部に在籍していたにも関わらず、そこで何を学んでいたのか、何のつもりで仕事をしていたのかという素朴な疑問が拭えない。さらにそういった週刊誌の露悪的な報道に大手メディアが乗っかってくる展開も首を捻らざるをえない。といった具合に、明らかに答えが自明な問題をいつまでもいつまでも主人公が無闇に思い悩む、というのが本作のプロットであるため、どうにも主人公とその周辺人物に感情移入ができないのである。
さらに、本作は一体誰がXなのかというミステリー要素も有しており、物語の最終盤でその答え合わせがあるのだが、これについても、そこまでの物語にこれといった手がかりがないので、特にこれといって納得感がなく、ミステリー的な快感も得られない。本作のような作品であれば、誰がXなのかは作品の早い段階で詳らかにして、そのうえで各人の心情描写に徹した方が良かったのではないかと思われる。
「宇宙から地球外生命体が難民としてやってきたら?」という特異な設定で現代日社会を描くという、非常に面白くなりうるポテンシャルの設定を有しておきながら、どうにもこれを活かせなかった感の残る本作。外国人差別をモチーフとしたSF設定を下敷きにしておきながら、本当に日本社会に揉まれて苦悩する外国人留学生が出てくる時点で、かなり首を傾げたくなるプロットなのだが、正直、この外国人留学生パートは割とカッチリとした作りになっていたので、主人公パートを全部削って、彼女を中心とした社会派の作品に仕上げたら良かったのになと思ってしまうところだ。
主演の上野樹里と林遣都の実在感のある演技は非常に良かったので、せめて、プロットはこのままで『世にも奇妙な物語』の一編くらいの短い尺で作っていれば、まだ勢いとコンセプトで乗り切れたかもしれないのだが、2時間やるには物語中の様々な要素を持て余してしまった感が否めない。
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