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推薦入試とファック・ザ・ポリス

あけましておめでとうございます。猫道です。今年からnoteを始めてみました。ライブパフォーマーとして、司会者として、塾講師として、一年中 人前で喋っているので、その中で感じたことをマイペースに記録していこうと思います。いわば「声と言葉」にまつわる日記です。

さて、年が明けて東京もかなり寒くなってきました。いよいよ受験シーズン。昨夜は都立高校の推薦入試を受験する生徒たちのレクチャーを担当しました。自分はいつもは英語や国語や社会といった教科の指導をしているのですが、昨夜はグループディスカッション(集団討論)を指導。集団討論の試験内容は、6人前後のグループで一つの課題を話し合い、時間内に結論を出すというもの。生徒たちは、日頃の受験勉強において基本的に投げられたボールを打ち返すことのみを訓練しています。よって、自ら語ることで状況を動かすというディスカッションは、彼らにしてみればものすご〜くフレッシュな経験であり、最初は戸惑いがあったようです。初回は誰かが口火をきるまで放送事故のような長い沈黙がありました(笑)。

一つのディスカッションが終わるごとに参加者に感想を言ってもらうと、皆一様に「緊張した〜」「うまく言えなかった!」など反省の言葉がたくさん出ます。でも、表情はどこか楽しそう。参加者以外の生徒に、よいと思った点をフィードバックしてもらうと、うまくいかないなりに良いところもあったことがわかりました。

参加者を入れ替えながら、何度かディスカッションを繰り返していくうちに、少しずつ生徒達の様子が変わっていったように思います。最初はできなかった他のメンバーの発言に対するリアクション、突っ込んだ質問、名前を呼ぶこと、一つの結論を出すまでにどんなプロセスを経たらよいか策を練ること。それらが徐々にできるようになっていき、授業が終わる頃には不思議な一体感と高揚感がありました。

一方的に話を聞いて無言で問題を解くという彼らにとっての「いつもの学習」と、声に出してやり取りをするという「今回の学習」は、随分違うものだということは、教える立場の自分も身をもって感じました。正直、普段の授業の100倍面白かった。ラップでいうところのサイファー(即興によるマイクリレー)を観ている感覚に近かったかもしれません。推薦入試は倍率が高いこともあって、宝くじを買うような気持ちで受ける生徒がほとんど。塾としても本腰を入れて対策するところは多くはありません。いわば、受験の中では添え物のような位置づけです。しかし、(運営の人手さえ足りれば)どの学校も一般入試に討論を入れたってよいのでは?とさえ思いました。それくらい、その人の持ち味がよくわかる血の通った試験方法だと思った。

授業を通して印象に残ったのは、成績は良好なものの、発言する際に緊張して声が上ずってしまう男子生徒。「公共の場にゴミ箱を置くことの是非」を話し合う討論の途中、彼は実体験を語り出しました。そのほんの数十秒。声が堂々と出て、生き生きとした瞬間があり、自分は「(ラップでいうところの)バイブスが上がったのだな」と内心思いました。おそらく、彼が話の中で自身の体験をシェアしたいと思った時の「伝えたい」気持ちが、緊張を上回ったのでしょう。そういったささやかながら素敵な瞬間に立ち会えたこともよかったです。

帰宅して思ったのは、声を出すということで発散される「目に見えないもの」のことです。さっきは「伝えたい気持ち」を「バイブス」と表しましたが、「気持ち」というはっきりしたものではなくても、声を出すということは何かを世に放出しているわけで、それによって空気が変わったり、人が高揚したりすることはやはり魔法みたいで面白いと思いました。

また、正月に観た【STRAIGHT OUTTA COMPTON】という映画のことも思い返しました。「ギャングスタラップ」と呼ばれる犯罪や荒廃した社会の様子を綴ったラップのオリジネイターとも言えるグループ「N.W.A」の実話を元にした作品。まだまだ人種差別が激しく、警官による黒人への暴行も問題になった1980年代のアメリカで、彼らがスターとしてのし上がっていく様を描いています。当初、薬物の売人であったリーダーが、レコーディングブースに入るも(ラップが下手すぎて)何度もやり直しをするというシーンがありました。N.W.Aにはのちに大活躍する優れたラッパーとトラックメイカーがいましたが、ミュージシャンとは呼べないような半グレのメンバーも当たり前のようにいて、そんな面々の放った粗削りながらも生々しい声と言葉が聴衆を動かしたのだと思いました。彼らの代表曲のフックは「ファック・ザ・ポリス!」。ただの悪口の範疇を超えた叫び(心底思っていて拡散したいこと)であり、それを大きなステージで集まった大観衆とシンガロングすることの意味は大きかったのだと思います。

「伝えたい」という気持ちが声になって出る時、意外なところから新しいヒーローが誕生する可能性を感じます。たとえそれが拙くても、技術を越えて大きなインパクトを残すことがあるからです。今月 推薦入試に臨む学生たちが本番の集団討論でよいマイクリレーができることを祈ります。頑張れ受験生☆

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