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人と情と伊勢の旅

現代人の動物との生き方と言えば「管理」とか「責任」がとかく重要視される。
まず飼い主(責任者)と同伴しなければ外に出ることはとても難しい。
外に出たとしても、特定の場所以外はリードにつながれ行動を制御される。
いろいろな管理をしないと、他人に迷惑をかけてしまうからだ。
人間社会が進歩するにつれて、動物社会も大きく変わってきておる。
現代には現代の動物の生き方があるのだな。
ということで今回のよもやま話は、遠い昔の人間と動物の関係や風情が垣間見える「犬」のお話である。


ふわっと聞いてくれればよい。



お伊勢参り

時は江戸時代にさかのぼる。
当時日本では伊勢神宮に参詣する「おかげ参り」が大流行しておった。
連日全国からたくさんの人々が集まっており「生涯で一度は行きたい場所」「一生に一度はお伊勢さん」と言われるほど当時の人にとっては憧れの地であるとともに信仰心がとても強い日本人の伊勢神宮参詣はとても栄誉なことであった。

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写真:三重のええとこ巡り よりお借りしました。

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伊勢参宮略図  / 広重 : ゑひ寿屋庄七, 安政2(1855)

おかげ犬

伊勢神宮の参詣が大流行している中、信仰心が強くてもお参りに行けない人もたくさんおった。
現代のように新幹線や飛行機で日本全国移動できる時代ではなかったからだ。
移動手段と言えば徒歩が基本の時代、どれほど伊勢神宮に心を馳せても、体が弱い人や病気の人、金銭的に苦しい人など、どうしても参詣できない人も多かった。
そこで現れたのが「おかげ犬」である。
犬の首に必要なもの(お金や主人の代わりにお参りしていることがわかるものなど)をしめ縄と一緒に結び付けて、伊勢神宮に向かう人と一緒に旅をするのである。
神宮に到着すると、竹の筒などにお札(おふだ)を入れてもらい、首にぶら下げて主人のもとへ帰るのだ。
こうして伊勢神宮への参詣を犬に託す人は意外に多かったようだ。
歌川広重の浮世絵にもこのおかげ犬が複数登場しておる。

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歌川広重:東海道五十三次 四日市
鳥居の下におかげ犬が描かれている。

人情の旅

参詣に向かう人と一緒に旅をしていたおかげ犬であったが、そのうち同伴者なしで伊勢神宮へ向かうおかげ犬も出てきた。
何日、あるいは何ヶ月もの道のりを犬一匹で旅するというのである。
そんなおかげ犬は、人々にとても愛され、先々で餌をもらったり寝床を貸してくれる人がとても多く、険しい道があれば助けてくれる人、無事神宮にたどり着けるようお金をあげる人、お金が増えてくると重くなるので両替してくれる人など、たくさんの人がおかげ犬を助け、無事お札をもらって帰宅したそうな。
現代では考えられないことだが、おかげ犬をいじめる人も、お金を盗む人もいなかったと言われておる。

人情にあふれた素敵なお話であるな。

さいごに

おかげ犬の風習は長く続いたそうな。中には犬ではなく馬や豚に参詣をお願いするケースもあったとか。しかし明治維新後に施行された「畜犬規則」によって野良犬と飼い犬の線引きがされ、野良犬は容赦無く駆除されてしまったそうな。そんな激動の時代に飲み込まれ、今では見ることができなくなったおかげ犬。そして何よりおかげ犬を取り巻く人々の人情溢れた姿を見れなくなってしまったのは少しさびしい気がする今日この頃である。
人も犬も自由だった時代。人のために旅する犬と、犬のために尽くす人、おかげ犬というのは伊勢神宮のお札だけではなく、たくさんの人々からたくさんの人情をもらう旅であったのかもしれない。

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吾輩、口下手ゆえ今回のよもやま話も支離滅裂な感じになってしまったかもしれぬ。
それでも最後まで読んでくれてありがとう。

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