Chim↑Pom / 都会のネズミと渋谷
私は動物が好きだ。大人になってからも一人で動物園に行くし、ふれあいコーナーで子どもに混じってヤギを撫でたりしている。
剥製をみると、最初に可愛いと思ってしまう。でも、それは死んだ動物の死骸でできていて、それにも関わらず、まるで生きているかのようなポーズをとらされている、というとかなりグロテスクである。
今回、紹介する作品は、Chim↑Pomのスーパーラット。Chim↑Pomの展覧会には色んなパターンで、このスーパーラットが登場するが、写真は2018年にTERADA ART COMPREXで鑑賞したものだ。ここでは、逆ピラミッド型のような岩?のようなところに展示されていた。
「スーパーラット」は、生き残るために様々な耐性がついた、都会に住むネズミのことを言う。この作品は、実際にChim↑Pomのメンバーが渋谷で捕獲したネズミを剥製にし、ピカチュウを模した加工がされている。
ネズミはどこかユーモラスで、ピカチュウのキャラクター性も相まって、一見可愛らしい。
ただ、彼らは駆除された害獣であり、人間に駆除されまいと進化を続けている生態である。展示されているネズミはごく一部で、スーパーラットは、これからもどんどん強くなり、「都会」な街で人間の裏側でのさばっていくのだろう。
でも、害虫と違うのだ。ネズミはあくまで哺乳類。病気を運んだり、食害や糞害もあるので、駆除はされるが、ちょっと可愛い。Chim↑Pomメンバーが、ネズミを捕まえる動画をみて、残酷と思う人も少なからずいるだろう。駆除したいのか愛でたいのか、人間はそのあたりが面倒だ。
Chim↑Pomは、2006年に結成された、アーティスト集団だ。パフォーマンス的に現代社会に切り込む作品で知られているが、たびたび炎上しているので、そのイメージがある人も多いかもしれない。
私も最初に彼らを知ったのは、渋谷駅の岡本太郎の作品「明日への神話」に、原発事故を思い起こす絵を付け加えた事件でだ。3.11後だったこともあり、大きなニュースではないものの、ネットを中心に不謹慎と炎上していた。
このときは、名前を知ったくらいだったが、翌年にワタリウム美術館の「ひっくりかえす展」で作品を見ることになる。
この展覧会はChim↑Pomがキュレーションを行ったものだが、社会に一石を投じるアート...というと真面目そうだが、それをキッチュに楽しげに(といえど逮捕者も出ているので、そう楽観的なものではない)みることができ、あまり社会派なアートをみてこなかった身としては、とても面白く、感動すら覚えた。
一見、不謹慎ないたずらにも思える行為も、反対に問題提起になったり、彼らなりのアンチテーゼだったり、そのバランスが面白い。彼らの作品を見たあとに、怒らずに「芸術実行犯」も読んでほしい。
彼らはまさに「渋谷の若者」だ。制度に歯向かい、危険が楽しく、めちゃくちゃなようでスタイリッシュな感性なある。
ただ、平成前半を朧げながらみた身としては、最近の「渋谷の若者」はちょっと落ち着き始めている。良くも悪くも洗練して、強調していて、もうガングロギャルみたいなのは、なかなか出てこないのであろう。
最近のどこか緩い雰囲気の中では、彼らの活動は過激すぎるのかもしれない。ただ、現状に満足できないのであれば、いっそ過激に突き進んで、渋谷でキャーキャー言いながら、ネズミを捕まえるのも手なのであろう。