ジョゼッペ・ペノーネ / 穏やかな死の香り
今回も過去に鑑賞した作品に関して、私なりのまとめだ。
こちらも、数年前にパリのポンピドゥーセンターで鑑賞したインスタレーションだ。
Respirare l'ombra, 1999〜2000
遠目から見たとき、石あるいは石に見える素材で壁が覆われ、同系色のサンダルが壁に取り付けられているように見えた。だが、近づくと石のように見えたものは網でつくられた枠の中に、月桂樹の葉がぎっちり詰まっているものだった。また、サンダルのように見えたものは、肺の形をしていた。
タイトルはイタリア語のため、google翻訳で調べると「影で呼吸する」とでた。私はイタリア語は分からないが、「呼吸」というものがこの作品のキーワードとなってくるであろう。
インスタレーションの中で呼吸をすると、月桂樹の乾いた香りでまさに肺が満たされる。生きている植物とは違う、乾いた独特の香りが、どこか荘厳な気持ちにすらさせられた。
ペノーネは、1947年にイタリアのピエモンテ州で生まれた。60年代後半にイタリアで興った「アルテ・ポーヴェラ」という運動に参加した。
「アルテ・ポーヴェラ」は、「貧しい芸術」という意味で、消費主義の犠牲を象徴するものとして、土や木、鉄、ぼろきれや新聞紙などを使った作品が特徴である。
ペノーネは、特に自然の中の素材を使った作品を手がける。有名なものは、木材から年輪をもとに元の形を復元させるような彫刻である。消費主義へのアンチテーゼも含まれているだろうが、どちらかというと、人と自然の関係、自然の生命力などを表現しているように感じた。
本作では、月桂樹の香りを通して、「呼吸」をハイライトした。そういえば、月桂樹は勝利の象徴でもある。しかし、この作品で使われる葉はもう死んでいる、乾いた葉だ。ある意味で、ここは月桂樹の墓場だ。勝利という煌びやかなものが失われた世界で、死の、しかしながら穏やかな空気を肺に吸い込んで、自分の中に取り込んでいく。
それは、アミニズム的な宗教行為のようにさえ、思えてくるものであった。
ペノーネの作品は、私はこれが初めて鑑賞した作品であるが、過去には豊田市美術館にて展示をしたこともあるそうだ。いずれまた日本でも展示をしてもらいたい。