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「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」をすすめたい!

本の存在は、だいぶ前から知っていた。

なにせ、このタイトルだ。

だいぶ、目立つし印象に残る。

興味がなかったわけではないが、手を出そうとは思わなかった。

「出会い系サイト」で「本をすすめる」というのが、何か気持ち悪かった。

私の知っている「出会い系サイト」とは、男女が、出会うためのサイトである。もし私が出会いを求めて、サイトに登録して、いざ、出会って、何の脈絡もなく女性から本をすすめられ、それだけが目的の人だったら、とても嫌だろう。

「あなた、何のために登録したの?」と問いただしたくなるはずだ。

しかし、ラジオで、著者の花田菜々子さんが出演されていたのを聞き。その後、気になってamazonで試し読みをして、私が盛大に勘違いをしていたことがわかった。

彼女が登録した「出会い系サイト」とは、ワ〇ワ〇メールとか、ハッ〇ーメールとかの、ガチガチの「出会い系」ではなく、すこぶる健全な、Facebookを利用したかなり意識の高い人(主にIT系)しか登録しないようなサイトだったのだ。

本編では、そのサイトは「X」と呼ばれているが、その意識の高い人々は、「X」を非常に愛しているし、「X」に登録している人同士は、異性、同性関係なく、仲が良くなっていく。

これは世間でイメージしてる「出会い系サイト」ではなく、どちらかというと、イメージ的には、「オンラインサロン」に近いのでは、と思う。あれも、Facebookを利用するし、参加している人は、大体、意識が高い(たぶんそのはず)。

オンラインサロンで、いわゆる出会い目的(ヤリモク)な人間がいると、浮いてしまうはずだ。そして、現に花田さんも、過去に出会った、ヤリモク男から、いまだに定期的に届くLINEをXで出会った人に見せて、笑う。意識が高い人々の中に、たまにいるヤリモク男は、かなり下に見られているのだ。

と、ここまでは、この本の前提部分であり、つまり、何が言いたいかと言うと、作者の花田さんは、何も間違ったことなどしておらず、健全なサイトで書店員として、「あなたにあった本を勧めたいから会いませんか?」と言って、出会い、本を勧めていただけなのだ。

つまり、私は、「出会い系サイト」という言葉にひっかかり、とんだ勘違いをしていたのだ。そのことに、amazonの試し読みで、やっと気が付いた。

それから、すぐに書店で文庫になったばかりの本書を手に取った。単純に面白かった。特に面白いのは、花田さんの独特なユーモアのセンスだ。

メンタリズムの勉強をしているという男性に出会うと、さっそく10円玉がどちらの手にあるのか、当てることができると言われる。花田さんは、当てて欲しいと思うが、男性は、あえなく外す。そんな男性が、「でもまあ、今も年収は5千万だし……あ、やば、言っちゃった。」と聞いてもいないことを親切に教えてくれる。

それを聞いた花田さんは、「せめて……せめて年収1千万と言ってくれていれば。「ほんとかよ」と思いつつ、まだどこかで信じようと思うことができたかもしれないのに。5千万では、ちょっとフォローできないじゃないか。」と心の中でつっこむ。

この「ほんとそうだわ」と思える花田さんの心の声が面白い。この5千万男とふたり、渋谷の雑踏を歩きながら、花田さんは、「無機質で居心地が悪いとしか思っていなかった街は、少し扉を開けたら、こんなにもおもしろマッドシティだったのだ。なんて自由なんだろう。やりたいようにやればいいんだ。こっちだってやってやるよ。やりたいように好き勝手に本の紹介をしてやるよ。」と心の中で宣言する。

変な人と出会い、そのことによって、自分の世界が広がっていく。狭い世界から、解き放たれていく開放感が文章からひしひしと伝わってくる。

この本が注目されているのは、もちろん企画(「出会い系サイト」で本を勧める)が面白いという点もあるが、それ以上に、花田さんの文体のユーモアのセンスにあると思う。きっと、何を書いても、面白いにちがいない。

というか、そもそも、読んだ本をこんなに覚えていて、他人と話しただけで、その人にあった本を勧められるってすごすぎる。

私は、少し前に読んだ本のことなど、まったく覚えていない。かなりよかったと思った本も、衝撃のオチがあった作品でさえ、一体なにが衝撃だったかを忘れてしまうのだ。

東野圭吾が好きな妻に法月綸太郎の「頼子のために」や絢辻行人の「十角館の殺人」をすすめようとしても、ほとんど覚えていることがないから、うまく説明ができない。

一体、なにが、衝撃だったのか。ネタバレをせずにすむのは、いいことだが、妻が読み終わったところで、説明を聞いても「へー。そんな話だったっけ」となるだけだろう。

話が脱線したが、本当の本好き(書店員)の方のすごさをあらためて感じた。本当にすごい。あと、なんで、そんなに読めるのか、それも不思議だ。

もし、今度、作品を出されるなら、それこそ、おすすめブックリストや本の読み方の本を出してもらいたいと思う。

他人と会うのも出会いだけど、本を読むのも出会いだ。この本に出会えて本当によかった。

いやー、やっぱり本っていいもんですよねー(特にオチはない)。