「あなたが誰かを殺した」 東野圭吾
工学部卒 理系の作家のミステリーは、科学的で論理的で展開が面白い。本書は人間味溢れる刑事 加賀恭一郎シリーズ。ぼくとつとして、観察眼が鋭く論理的な分析で真実を導き出す。
木々に囲まれた山麓の別荘を舞台に殺人事件が起こる。5人が死亡、1人が怪我を負う。
事件後、付近の老舗ホテルのレストランで食事を終えた男性が、自分が犯人と打ち明けて逮捕されるが何も語らず、真相は謎のまま。
4軒の別荘の遺族と関係者が一堂に会して検証会を開く。不安な鷲尾春奈は看護師の先輩 金森登紀子の紹介で休暇中の加賀刑事に付添いを依頼する。検証会で、加賀刑事が司会を務め事実関係を整理して、隠れていた事件の真相に近づいてゆく。
5つの家族の事情、失望から生まれた殺意、計画と偶然が重なり犯人は2人だった。検証会が終わり帰りの新幹線で、春奈と加賀の会話に見逃されていたもう一人の犯人が。
誰かが嘘をついている、言えない真実。人は表と裏を抱えて生きている。
新幹線で老舗のホテルから、箱根を想像する。金森看護師は、加賀の父を看取った過去の作品を思い出させてくれる。東野作品は、読者を物語の世界にストンと入り込ませてくれる。結末の驚きだけでなく、一つ一つ真実が明らかになる過程が読者を飽きさせず、リズム感がある。アガサ・クリスティのような作品だった。
映画で阿部寛が演じる加賀恭一郎も好きだか、もしも若かりし高倉健が演じたらと密かに思う。