「関西女子のよちよち山登り 3.大和葛城山」(3)
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ガイドブックには歩きやすい道だと確かに書かれていたはずだ。しかし登山道はどう見ても荒れている。
「この丸太渡るん?楽しそうやん!」
暗い顔の登和子とは対照的に、優希の声は弾んでいる。
「でもこんなん、初心者向きやなくない?」
「まあ確かになあ」
「ガイドブックに書かれてたことはウソやったんかな」
あ、と優希が何か思いついたような声を出す。
「ほら、台風とかでこうなったんちゃう?最近すごいのん来るやん」
しかし、それならばなぜその情報がガイドブックに反映されていないのか。
「あ」
登和子は頭を抱えてしゃがみこんだ。
原因が分かった。
ガイドブックは古本屋で買ったものだ。
奥付で出版された年を確認していないが、かなり前に作られた本なのではないか。
間違いなく、天狗谷道は歩きやすく初心者向けのコースだったに違いない。しかし、近年の猛烈な勢いの台風や大雨で、道が崩壊してしまった可能性がある。
ガイドブックを信じきり、登和子はネットで大和葛城山に関する情報を補完していなかった。
「ごめん、優希。私ちゃんと調べてなかった。道がこんなんやて知らんかった」
ここだけが崩壊しているとは思えなかった。このあとも同様に道が荒れていると考えたほうが自然だ。
「いやいや、葛城山をゴリ押ししたんは私やんか!でもどうする……引き返す?」
「ううん……帰る足がない」
水越峠行きのバスは本数が少なく、午前と午後に二本ずつしかない。そして水越峠に着いたバスがそのまま富田林駅に折り返す仕組みになっている。
「私たち、十時台のバスで来たやろ?終点まで行って富田林駅に折り返すそのバスに乗らんと、次のバスが来るんは三時とかやったはず」
「おおっ、行きに乗ってきたバスなんてとっくに帰ってもてるわ」
「そんなわけで、私たちに退路はないのです」
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