「関西女子のよちよち山登り 5. どんづる峯」(1)
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「どんづる……みね?」
「それ、どんづるぼうっていうねん」
『どんづる峯』という背が高い看板を眺めながら、なんて“山離れ”した名前だろうと思った。
今日登和子は初めて、登山好きの恋人・次郞と山登りをする。登る山は彼いわく異色の山、どんづる峯。
最寄りの駅がないため、二人はカーシェアの車で現地に向かった。車での遠出のときは、営業職で日常的に車を使っている次郞が概ね運転する。
登和子はどんづる峯についてまったく予備知識がない。次郞から「見たときのお楽しみやから、事前に調べたらあかんで」と釘を刺されていた。
車内で他愛のない話をしながら、何度か今日登る山について尋ねてみたが、ことごとくはぐらかされた。山の名前すら教えてもらえずじまいだったが、それも含めて“異色の山”という意図だったのだろう。
確かに、金剛山や飯盛山のように、いかにも山という名前からはかけ離れている。
「このどんづる峯って山、そんなに変わってるん?」
「変わってるっていうか、びっくりするっていうか。まあおれも写真でしか見たことないねんけどな」
「えっ」
「ほらそろそろ行くでー」
呆気にとられる登和子を置いて、次郞は看板の横から続く階段を登り始めた。
登った先は広場になっており、ベンチと真新しい立て看板があった。何が書かれているのだろうと看板に足を向けると、次郞がすぐに邪魔をしてくる。
「看板、見たいんですけど」
「これはあかん。ネタバレや」
次郞が先日来ずっと隠し続けてきた秘密のすべてが、看板に書かれてしまっているのだろう。
「ならしゃーない、帰りに見るわ」
登和子は看板が視界に入らないように注意しながら、少しだけ給水した。七月の登山での水分不足を反省して、今回は多めに持参している。
次郞のほうを見ると、ペットボトルをザックにしまい、代わりにサコッシュからスマホを取り出しているところだった。何度か画面に指を滑らせたあと、またサコッシュに入れる。
「じゃあ行こか」
登和子がザックを背負ったのを確認してから、次郞はゆっくり歩き出す。
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