「関西女子のよちよち山登り 3.5 二度目のお買い物」(1)
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大和葛城山から下山した翌日、登和子は梅田のアウトドアショップに向かった。
日曜日の午後だからか、お店はとても混雑している。
山の上で温かいごはんを作って食べてみたい――。
新しく芽生えた野望を叶えるために、登和子は早速行動に移った。昨日のうちに、必要なものをざっとネットで調べてある。
まずはガス缶。そしてガス缶のガスを使って火を点けるバーナーが必要だ。調理用具は、登和子が参考にしたサイトで小さなフライパンが使われていたので、暫定でフライパンを買おうと思っている。
この店に来たのは、先月登山グッズを買いそろえたとき以来二度目だ。そのときは店員がテキパキと誘導してくれるのについていっただけで、どこにどんな商品が置かれているのかまったく把握していなかった。目当てのものを探してゆっくり店内を歩く。
「うわ、めっちゃ多いやん」
鍋やフライパン、やかんなどが置かれた棚を見つけたものの、いろんなサイズ、素材のものが何種類も並んでいる。一般的なキッチン用品の棚とほとんど変わらない。
同じ棚にガス缶とバーナーも並んでいたが、こちらも種類が多い。
ガス缶に至っては戸惑うほどだ。ネットで見たものは、ドーム型で頂点にフタがついているものだった。それがメーカー違いで二、三種類あるくらいだろうと考えていたのに、実際は棚の一角を上から下まで占めるほどに種類がある。
ネットで見たものもあったが、それを縦に重ねたような高さのものがあったり、卓上コンロで使うカセットボンベにしか見えないものがあったりと、何を買えばいいのか分からなくなってくる。
バーナーは大きく分けて二タイプあった。
登和子がネットで見たものは、ガス缶の真上に五徳を取り付けるタイプだったが、五徳からコードが伸びているタイプのものもある。その二タイプが、メーカーごとに少しずつ形を変えて並んでいた。
「あとこれは完全に初めましてやな」
ガス缶の上に、ガス缶と同じ幅の、大きなコップが取り付けられているものがあった。これに至っては用途すら分からない。
「ははーん、さてはこれ、何買ったらいいか全然分からんやつや……」
ほんの少しネットで調べただけの商品を本当に買って良いのか。果たしてそれは正解なのか。
ぽそぽそつぶやきながら棚を眺めていると、
「次は山ごはんですか?」
「ああっ!」
いきなり声をかけられ、登和子はびっくりして体を震わせた。
「すみません!驚かせてしまいまして」
「いえいえこちらこそ、変な声出ちゃいました」
横に立っていたのは、先月お世話になった店員だった。
「前に来てくださいましたよね?山、行かれました?」
「おかげさまで、金剛山に登りました」
「ああ、いいですねえ!」
「で、次は山でごはんでも作ってみようかと」
登和子より若そうな、恐らく二十代半ばだろう男性の店員は、人なつっこい笑顔を見せながらうなずいている。
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