「関西女子のよちよち山登り 3.大和葛城山」(5)
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道の左手にキャンプ場が見え、さらに進むと、白樺食堂という店名を掲げたかわいいログハウス風の建物が現れた。
「あ、優希、こっちに曲がるみたい」
右手に山頂への分岐があった。いよいよ頂上だと喜んだものの、意外なほど距離があり、傾斜もここまで登ってきた足にこたえる。最後まで気が抜けない山だ。
「着いた!」
登和子と優希の声がそろう。優希に促され、登和子は二人でハイタッチした。
「良かったあ……無事にたどり着けて」
安堵から大きく息を吐いた。
大和葛城山の頂上はとても広い。一面に木が生えておらず、『葛城山頂』と書かれた木製のモニュメントを中心に、三六〇度、空と景色を堪能することができた。
「すっごいなあ!絶景やんか」
優希はその場でゆっくり回り、感嘆の声を上げた。
『葛城山頂』のモニュメントの奥からは、遙か先まで続く平野に、建物がびっちり立ち並んだ街の風景が見える。
モニュメントの左側からは大きな山が(金剛山?)、そして右側からは街並みが見えたが、先ほどの街とは様子が違う。
街のすぐそばに山があった。人々の生活圏と山が地続きにつながっている。さらに街の後ろには、霞がかって、水墨画で描かれたような陰影の山々が横たわっていた。
さらに、
「優希見てみて!あそこ、街の中に山っぽいのない?」
「ほんまや!」
まるで浮島のように、街の中に三つの山が点在している。ぽん、ぽん、ぽんと。不思議とほっこりする光景だった。
一通り景色を見終え、優希が居合わせた登山者に声をかけて『葛城山頂』のモニュメントの前で写真を撮ってもらった。お礼にこちらも相手のスマホで撮影した。
「じゃあ山ちゃん、これからがいよいよ本番やで!ツツジは咲いているでしょうか!?」
忘れていた。冒険コースを終えた安堵感やきれいな景色を見た満足感で、正直ツツジのことが頭から抜け落ちていた。
その言葉を飲み込んで、ツツジを探すべく走り出した優希のあとを追いかけた。
ツツジは見事に全滅だった。
ガイドブック上でツツジが咲き誇っていた山肌は、一面茶色に近い緑色だった。目をこらせば一部ピンクのところがあるようにも見えるが、気のせいかもしれない。
二人は大いに笑った。
「全然ないやん!むしろすがすがしいくらい!」
笑いすぎて目に涙をにじませながら、優希は本来ならツツジが見える特等席だろうベンチに腰掛けた。登和子も向かい合ったベンチに座る。
「そういえば私たちが葛城山に来るきっかけって、優希が唱える『ツツジが案外残ってるかもしれへん説』を信じてやったよね」
「いやあ、残ってませんでしたなあ」
笑いの波が落ち着いたところで、ベンチとベンチの間にあるテーブルにお昼ごはんを広げる。
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