「関西女子のよちよち山登り 5. どんづる峯」(5)
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ダンジョン、と感じたのはあながち的外れではなかった。
白い岩の上を、歩けそうな場所を探してさまよったり、傾斜が急な場所ではほぼ座り込んだような状態でじりじり下ったりと、まるで冒険しているようなスリルがあった。
「そういえば次郞。さっき、屯鶴峯に来たことない、みたいなこと言うてへんかった?」
岩のダンジョンが終わり、樹林帯に差し掛かったあたりだった。前を歩く次郞の背中越しに声が返ってくる。
「そうそう、初めましてやねん。今度みんなとダイトレ制覇しようってことになってなあ。そのスタートがここやから、視察がてら一回行っとこうと思って」
続く次郞の補足によると、ダイトレとはダイヤモンドトレイルの略称らしい。奈良県香芝市の屯鶴峯から大阪府和泉市の槇尾山までの山々をつないだコースで、全長四五kmにも及ぶ。金剛山や大和葛城山もダイトレのコースに入っているようだ。そういえば登山のガイドブックでそんな説明文を見かけたような気がしないでもない。
「屯鶴峯の隣の二上山から岩湧山までは縦走したことあんねんけど、どうせなら最初から最後まで行ってみよかーって話になってな」
「へええ」
このあたりの山はいわゆる「低山」の部類のはずで、登和子でも頑張れば登れる山ばかりだ。
「次郞たちも低い山に登るんやな」
思ったままの感想を口にすると、次郞が笑い声を上げた。
「登るに決まってるやんか」
そのまま立ち止まり、登和子の方を振り向く。
「標高が高い山にも低い山にもそれぞれおもろいとこあるし。この屯鶴峯やって、標高はめちゃめちゃ低いけど、この独特な岩の景色を見られるんはここだけや」
我知らず力説していた自分に気づいたのか、次郞は少しはにかんだ。
「そんなわけで、おれは標高にかかわらずどんな山でも好きやし、登りたいと思う」
少年のように無邪気な光をたたえる次郎の目を見ながら、登和子はやっと気がついた。
どうして次郞に山に登っていることを言えなかったのか。
「そっかあ」
否定されたくなかったのだ。
登和子は、身近に次郞という山の先輩がいながら、相談もせず勝手に登山を始めた。
道具のそろえ方も登る山の選び方も歩き方もすべて手探りで、相談できる仲間もいない。登る山は本やネットで「低山」に分類されるところばかりで、しかも大体ひとりだ。
「仲間と連れ立って高い山に行く次郞」に知られたら一体どういう風に思われるだろう。それが怖かった。
登和子は確かにひとりだが、これまで苦労して、いろいろ発見し、頑張って登ってきた。
そして美しい景色をたくさん見た。少しずつ楽しくなってきた。
その自分の小さな楽しみを、上から目線で否定され、一ミリでも傷つけられたくなかったのだ。
「私、次郞がここまで山バカやとは思ってなかったわ。なんか安心して気ぃ抜けた」
「おれ今めっちゃ褒められたんちゃうん、ありがとう」
今度は登和子が声を上げて笑った。
今日、この山に二人で来られて本当に良かったと思う。
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