「関西女子のよちよち山登り 4.飯盛山」(4)
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なんとかバーナーをセットし終え、深型クッカーの深い方に水と麺を入れる。五徳に載せ、ガス栓のつまみをひねってガスを放出する。
ブシューッ!
「うわっ」
音に驚いて思わずガス栓を閉めてしまう。
勢いよくガス栓を開きすぎた。今度はそっとひねる。
ガスを放出しつつバーナーの着火ボタンを押す。ボッという音をさせて無事に火が点いた。
箸でクッカーの中の麺を炒める。ぐにゃぐにゃとした白いそれは、水をまとわりつかせたまましばらく何の変化もない。
少しずつ麺の周りから水分が飛んでいく。
「あ!麺の色が変わってきた!」
白い麺が、水分が飛ぶにしたがって徐々に黄色みを帯びていく。箸で一本つまんでみると大きくたわみ、食べられる硬さになっていそうだった。
火を止めてクッカーにパスタソースを投入する。しっかり和える。
パスタソースは、山ごはんという『とっておき』のために、普段は利用しない少し高級志向のスーパーに行って購入した。瀬戸内レモンのクリームソース、三百円税別。
最後に自宅からボトルごと持ってきたパセリを振りかける。
「おお……できた!」
クッカーからいい匂いが漂っている。ガス缶とバーナーを隅によけ、登和子は早速箸をとった。
「いただきます」
一口食べ、にんまりと笑う。
「ふふ……ほうほう、なるほど」
おいしい。麺に固いところはあるし、うまくソースが絡んでいない部分もあるけれど、家で食べるより断然おいしく感じる。
もちろん奮発しただけあってパスタソースもおいしい。口当たりは濃厚なのに、すぐにレモンのさわやかさが口の中に広がりさっぱりする。クリーム系のソースにありがちなくどさがまったくなく、どんどん食べ進められる。
登和子はあっという間に完食した。
「ごちそうさまでした!」
麦茶を飲んで一息つく。頬に風が当たる。
くつろいだ気持ちで少し目を閉じた。
ガスやコンロ、鍋、食材。調理に必要なものをすべて自分の力でここまで持ち運び、慣れない道具に苦労しながらなんとか山でごはんが作れた。
意外とやればできるものだ!
登和子はうれしくて踊り出したい気持ちをなんとかこらえた。
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