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「関西女子のよちよち山登り 4.5 わだかまり、とける」(終)

前の話 / 次の話

 もともと怒りっぽいたちではないが、次郞は怒りもせず、悲しみもせず、神妙な顔をして小さく何度もうなずいている。

「まあ、そういうこともあるやろ」

 話をざっとまとめて切り上げ、一転して明るい表情になる。

「で、どんな山に行ったん?」

 ウキウキという擬音が背中から飛び出してきそうなほど、次郞のテンションが急上昇した。登和子はその切り替えの早さに戸惑いながら、ぽつぽつと登った山を挙げていった。

「まず金剛山」

「おお!」

「で、交野山と国見山」

「縦走やん!やるなあ!」


 縦走とは、山から山へ続けて歩くことを言うのだそうだ。

「えっと、次が葛城山で、これは優希と行った」

「会社の優希さん?山行くんや、あの人」

「子供のころ以来らしいけど、私よりずっと上手に登ってた」

「運動神経良さそうやもんなあ、あの人」

 次郞が朗らかに笑う。私の心も少しずつ軽くなっていく。

「先月は四條畷の飯盛山に登った」

「そこ行ったことない!どんな感じやった?」

「武将の像が頂上に建ってた。あと、もやがなかったら明石海峡大橋が見えるって」

「四條畷から見えるんや!へええ」

 ああ、この人は本当に山が好きなんだな。

 次郞たちが登っている高い山の話など一つもなく、どれも低い山の話ばかりだ。それなのに、こんなにも興味深げに、楽しそうに聞いてくれる。次郞の山好き度を見誤っていたかもしれない。

 こんなことなら、さっさと話しておけば良かった。

 料理を食べ、お酒を飲んで笑い合い、気がつけば一時間ほど経っていた。

「今月はもう月イチ登山したん?」

 真っ赤な顔をして次郞が聞く。彼は登和子と同じく、お酒はあまり強くなかった。

「まだ」

 七月の飯盛山以来、まだどこにも登っていない。八月も中旬に差し掛かる。そろそろ登る山を決めなければならないと思っていた。

「じゃあ、これまでの登山できっと登和子が見たことない、異色の山に行ってみーひん?」

「異色の山……?」

「正確に言えば山じゃないかもしれんけど」

 まるで謎かけだ。山だけど、異色で、山じゃないかもしれない?

 しかしとても興味は引かれる。

 登和子と次郞は、八月最終週の日曜日にその“異色の山”に行く約束をした。

                  (4.5 わだかまり、とける-終)

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