「関西女子のよちよち山登り 5. どんづる峯」(終)
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屯鶴峯の頂上は狭いが拓けていて、鉄塔がそびえ立っていた。近くの木の枝に、頂上を示す小さなプレートが針金でくくりつけられている。
「着いた!けど、なんていうか……」
辺りをぐるっと見回す。次郞が言葉を引き取った。
「景観ゼロやな!」
「ほんまそれ」
周りは木で囲われており、景色はまったく見えない。
「でもまあ、頂上は頂上や!おれらは無事屯鶴峯の頂上に立てました!」
山名の書かれたプレートを写真に収め、二人はやってきた道を引き返した。
「ところで登和子、まだ時間ある?」
憎き『行き止まり』の紙を通り過ぎたあたりで、次郞が肩越しに尋ねてくる。
「もちろん。夜まで大丈夫」
次郞がにやっと笑う。
「じゃあ、山登りしたあとのお楽しみ、行きましょか」
いかにも何か企んでいる顔だ。
いまや生粋の山バカである次郞のことだから、きっと楽しい目論見であるに違いない。
登和子は笑顔でうなずいた。
次郞の“お楽しみ”とは、スーパー銭湯での日帰り入浴と、道の駅への寄り道だった。
スーパー銭湯では全身にかいた汗を流せるうえに、大きなお風呂で足を伸ばせる幸せは筆舌に尽くしがたかった。さらに次郞が予備のTシャツを貸してくれたので、びしょびしょに濡れたシャツを再び着ずに済んだ。
道の駅では地場の食材を使った定食と、デザートにジェラートを食べた。食後に併設の野菜売り場に行き、農家直送の新鮮な野菜を何種類も買えた。
「ああ、最高や!」
帰りの車中で登和子は叫んだ。次郞は満足げににこにこしている。
山登りの楽しみは山に登るだけではない。
登和子は新しい扉を開いた気分だった。
(5どんづる峯-終)
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