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【本】『雑種 (世界ショートセレクション) 』(フランツ・カフカ、ヨシタケシンスケ、酒寄進一/理論社)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

今日は、カフカの短編集『雑種』をご紹介します。

15編の短編集です。わたしは「皇帝の使者」を読みたくてこの本を手に取りました。これまで、カフカは『変身』と『アメリカ』ぐらいしか読んだことはありません。

「カフカ本人は、作品を笑い話として書いたのに、特に日本では読む人が深刻ぶっているのだ」と高校生時代に友人が主張していたのを、ときどき思い出します。しかし、『変身』も『アメリカ』も、到底「笑い話」には思えなくて。
今回、15編全部を読んでみて、わたしはカフカは苦い笑い話を書いているのだと思いました。高校時代の友人の主張は半分だけ合っていたようです。

15編とは下記のとおり。読んでいて特に気に入ったのは太字にしました。

出発

判決 ある物語
皇帝の使者
田舎医者
独楽
家父の気がかり
流刑地にて
館を防衛する光景

雑種
断食芸人
ハゲタカ
ある学会報告
掟の前

「館を防衛する光景」で絵が描ている、組織の機能不全っぽい渾沌は、現代にもあるあると思えるもので、全体を見渡す人がちゃんといない、とか立場の異なる人達の話が通じ合わないとか、しわ寄せが誰かに押しつけられているとか、そういう目配りと描写がカフカっぽいです。

「橋」はお色気風ギャグで、「雑種」は、微妙におかしい状況に、外野からやいのやいの言われながらのほほんとしている主人公が面白いです。

「ある学会報告」から、むかし大好きだった、「おさるのジョージ」を思い出しました。黄色い帽子のおじさんと仲良しのおさるのジョージですが、実は彼は、故郷から誘拐されたのです。子供の時は気が付かなかったけれど、大人になって再読したときはちょっとショックでした。

とはいえ、読み方によっては、ジョージは「おさる」という設定だけれども、本当は黄色い帽子のおじさんと父子家族の子供の冒険譚とも解釈できて、可愛らしい絵もあって、とても楽しく読ませてくれる本です。

そのジョージがいつか大人になって、より快適な暮らしを求めるようになったら、もしかするとこんなブラックユーモアな感じになってしまうのかな、と思ったのが「ある学会報告」です。

カフカがこの物語を書いて亡くなった年が1924年、おさるのジョージの出版は1941年だそうです。互いに影響しあうわけもないですね。

閉塞にもがく人間を描くことの多いカフカが、人間になろうとした猿の話を書いて、猿に「活路を見出したい」と語らせるのは、面白いけれど、やっぱり苦笑いの「笑い話」です。

それから「掟の前」は、ついつい礼儀正しくしていれば安全と思っている自分には、とても身につまされる物語でした。気になる方はぜひ読んでみてください♪

■本日の一冊:『雑種 (世界ショートセレクション) 』(フランツ・カフカ、ヨシタケシンスケ、酒寄進一/理論社)

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