プロローグ 旅をするわたし
ずっと横浜に住んでいます。ほかの場所で暮らすことへのあこがれもあるのですが、いまのところは、ずっと横浜に住むのでしょう。
フリーランスのライターになって、24年になります。紙媒体の仕事をしたこともありますが、ほとんどがネットの世界です。細々と、できる分量だけの仕事を続けています。
趣味と呼べるほど、夢中になれることはないのですが、本を読んだり、お菓子を焼いたり、ピアノを弾いたりを、日常的にしています。
足の付け根の骨に生まれつきの異常があって、たびたび痛みます。整形外科に通って毎週のリハビリを続けています。
44歳のときに乳がんになって、さらにその治療で子宮体がんにもなりかけて、入院・手術を何度かしました。乳がんは、いまも投薬治療を続けています。副作用による体調面の不安を抱えています。
家族は、6歳年上の夫と、22歳の息子です。愛犬は天国へ引っ越しました。
息子は、ふつうの22歳とは、ちょっとちがいます。
歩けないし、話せないし、自分でトイレにも行けません。ごはんも自分で食べられません。生きるためのすべてに人の手が必要です。
でも、いつもごきげんにすごしています。笑顔が素敵な青年です。
息子は、平日は福祉施設に通っています。ごはんを食べさせて、おむつを替えて、着替えをさせて、側わん症のためのコルセットをつけて、福祉機器のリフトを使って車いすに乗せて、短下肢装具という靴を履かせて、施設の送迎車に乗せて送り出します。
息子は私よりもはるかに大きな、一般的な成人男性と同じ体つきをしているので、着替えも何をするにも、ひとつひとつのことに、とても力と注意が必要です。たくさんのコツも必要です。
夕方にはヘルパーさんが来て、お風呂に入れていただいたりもします。そのための準備も必要です。診察やリハビリの通院もたくさんあります。車いすごと乗れるリフトのついた福祉車両を運転して、息子を連れていきます。
息子の生活をまわすことが最優先です。息子の予定をこなすことが生活の中心です。いつも時間に追われています。
日中のわずかな自分の時間にも、もしかして息子に何か起こって電話がかかってくるかもしれないと、そんなことを思って、身動きができなくなったりもします。
自分の人生を生きているのだろうかと、疑問に思うこともあります。
できることなら、天国に引っ越した愛犬に、一日も早く会いに行きたいです。
そんなわたしが日常から逃れるための、ひとり旅の記録です。
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