食べられた冬の記憶

昔のことだけれど、
未だに記憶に残っていることがある。

雪に食べられたお話。

あれはたしか私が5歳とかだったかな？
おばあちゃんが近所の家に用があると言ったので
一緒に手を繋いで歩いて行った。

そこではおばちゃんはそのお家の人と少しおしゃべりをして、
用事を済ませ帰ろうとした。
するとそのお家の人が、私に500円玉をくれた。
今でも覚えている。
すごく嬉しかったなぁ。

そして帰り道。
おばちゃんと一緒に、深い雪道を歩いて帰った。
右手はおばちゃんと繋いでいる。
左手には、500円玉がある。
その500円玉を強くぎゅっと握りしめ、
ゆっくりゆっくり歩いて帰った。

家に無事到着。
ん？おかしいぞ？
私の様子がおかしい。
どうも、私の左手の様子がおかしい。

あれーーーー⁉
私の、私の……500円玉がないっ‼‼

すごくショックでした。
私の左手からあの500円玉はなくなっていました。
どこかに落としたのですね。
おばあちゃんにも怒られました。
大事にしなきゃだめだよって言われました。
ごめんなさい。

ずっとしっかり握っていたはずなのに。
どこで落としたんだろう。
探したけど、この雪の中では見つからなかった。
雪が、私の大事な500円玉食べちゃった。
はぁ。残念……。

それから私が高校生になった時。
またしても雪に食べられる事件が起きた。

友達が私の家に遊びに来た。
季節は冬。雪がすごく積もっていた。
私の家からの帰り道、友達は手に持っていた
携帯電話を落としたらしい。
友達は私の家に慌てて戻ってきて、
事情を聞いた母と私は友達と3人で
一緒に雪の中を探した。

見つからない。
探している間にも、雪はどんどん降り積もる。
それはそれは容赦なく。
急いで隠そうとしているのだろうか。
しばらく探したが見つからないので、
友達は諦めたようだった。
またしてもやられた。

暖かくなって雪が解けたら
友達の携帯電話は出てくるのだろうか。
それとも昔の私みたいに
もう食べられてしまったのだろうか。
未だに気になる500円玉。
ごめんね見つけられなくて。

雪は解けたが、
携帯電話は見つからなかった。

完全に食べられたな。
私の500円玉と友達の携帯電話。

そんな雪の思い出を
こうして未だに思い出しては
雪をじっと見ています。

ではまた。