子ども同士のトラブルは5分で解決せよ
小学校の教員をしていると、必ず毎日と言っていいほど子ども同士のけんかなどのトラブルが発生する。
けんかが発生すると、当事者の子どもか周囲で見ていた児童が教員に伝えて発覚するわけだが、その対応を誤ると両者の保護者や管理職等を巻き込んだ大きな問題になりかねない。
しかし、適切な対応をすることで、子どもの心の成長につながるのはもちろん、保護者や管理職からの信頼も厚くなる。
ということで、今回は、私が試行錯誤しながらマニュアル化した子ども同士のトラブルの最短の解決の仕方をお伝えしたいと思う。
なぜ「5分で解決」させることが大切なのか
トラブルの解決方法をお伝えする前に、なぜ子ども同士のトラブルを5分で解決することが大切なのかについて述べる。
一般的な仲裁方法
小学校教員の一般的なトラブルの仲裁方法は以下の通りである。
①被害者の言い分を聞く。
②加害者に事実を確認する。
③教師が加害者に説教をする。
④加害者に謝らせる。
⑤被害者に許させる。
例 「AがBをたたいた際のやりとり例」T(教師)A(加害者)B(被害者)
①T「どうしたの?」 B「○○さんにたたかれた」
②T「本当なの?」 A「いやだって、・・・」
③T「なんでそんなことするの!」「何があっても暴力はだめ」
④A「ごめんなさい」
⑤B「いいよ」
私も教員になりたての頃は、このような一般的な手順で話を聞いていたし、何十年も教員を経験している先生もこのようなやり方をしていた。
この方法の問題点
しかし、このやりかたにはいくつか問題点がある。
①時間がかかる
上記の例では、シンプルに書いたが、この方法だと、本当に時間がかかる。時間がかかると、何が論点なのかもわからなくなるし、授業時間に差し掛かってしまうことがある。私も何度も、授業を自習にして、話を聞いていたことがあるが、他の児童にとってはいい迷惑である。
なぜ、時間がかかるかというと、まずは両者感情的になっているので、泣いていたりして何を言っているのかが分からないことが多い。また、両者とも自分に都合の悪いことは言わず、相手の非ばかりを述べるため、何が起こったのかが見えてこない。子どもは、平然と「言わない嘘」をつく。
そして、教師は時系列通りに何があったのかを聞き取ろうとするため、その都度事実を確認していくと、食い違いが起こって、またけんかになるという悪循環になるのである。
②子どもの気持ちによりそっていない
この方法だと、両者の心理的な面のケアを全くしていない。まず、加害者は、自分の気持ちもないがしろにされ、ただ謝らせられることになる。また、被害者もうわべだけの謝罪には大抵納得していない。このやりとりは、教師の自己満足である。
③トラブルの解決だけを目的とし、子どもが対人関係能力を高める機会にならない
人間が生活していくうえで、必ず衝突が起こる。それは、子どもでも大人でも同じである。だからこそ、けんかなどのトラブルは、子どものうちに、どのように人と関わっていくのかを学ぶチャンスである。それにもかかわらず、教師が裁判官となりいい悪いを判断して謝罪をさせるという方法では、この対人関係能力を高める機会を奪っていることになる。
ここで学ばせたいのは、意見の異なる相手の気持ちを受け入れ、自分の意見と合わせて合意を見出していく力である。
以上のように、よく学校現場で見られるこのようなやりとりには、様々な問題点がある。そのため、子どもの心理的な側面に焦点を当てながら、学びがあり、時間がかからない方法が必要になる。
トラブルを5分で解決する方法
解決の流れ
①両者の気持ちを聞く
②自分がその気持ちにしてしまったと思うことを聞く
③どうすればよかったかを考えさせる
このような流れでいくと、トラブルを5分で解決することができる。先ほどの、「AがBを叩いた」という事例で具体的なやりとりを挙げながらポイントを解説していく。
①両者の気持ちを聞く
B:先生あのね。Aさんがいきなりたたいてきたの。
T:そうだったの。それで、Bさんは今どんな気持ち?
B:嫌な気持ち。
T:そう。たたかれたのが、嫌だったのね。
B:うん。
T:じゃあ、Aさんは今どんな気持ち?
A:すごいイライラする。
T:何にイライラしてるの?
A:Bさんがおにごっこに入れてくれなかったこと。
T:じゃあ、Aさんがおにごっこに入れてくれなかったことが悲しいのね。
B:そう。悲しかったの。
〈ポイント〉
いきなり事実を確認するのではなく、気持ちを聞くことで、子どもに自分の気持ちを自覚させる。
気持ちに嘘はないとの姿勢で、全て共感し、話をするための心を開かせる。
怒りなどの激しい感情の場合は、その前段階にある悲しさや悔しさを引き出す。
ここでは、細かい時系列で事実を確認しない。
②自分がその気持ちにしてしまったと思うことを聞く
T:Bさん、あのね。Aさんは、今悲しい気持ちなんだって。
何かAさんを悲しく気持ちにさせたことはある?
B:「鬼ごっこに入らないで」って言っちゃった。
T:教えてくれてありがとう。
Bさんに、「入らないで」っていうのは何か理由があるの?
B:いつもずるするから入らないでほしかったの。
T:ずるをされるから入らないでほしかったんだね。
T:Aさんは、Bさんが嫌な気持ちになるようなこと何かしちゃった?
A:Bさんを叩いちゃった。
T:そうだね。Bさんは、叩かれて嫌な気持ちになっちゃったんだって。
T:叩いたっていうことは、本当は、Bさんにどんなことを伝えたかったの?
B:鬼ごっこに入れてほしいっていうこと。
T:叩いて、鬼ごっこに入れてほしいって伝わったかな?
B:ううん。
T:じゃあ、どうやったら、ちゃんと伝わるか一緒に考えようか。
〈ポイント〉
だんだんわかってくるので、時系列にこだわらない。
人から、「お前は○○しただろ」と言われると、反発したくなるので、自分で言わせる。
自分で言ったことを肯定していくことで、話しやすくなる。
被害者側からから自分のやったことを言わせると、加害者も自分のやったことを話しやすくなる。逆だと、加害者側が自分のやったことを言わないことがある。
子どもの性格や教師との人間関係によって聞き方にバリエーションをもたせた方がよい。例「自分がやっちゃったな~と思うことはある?」「ちょっと落ち着いてみて、振り返ってみてどう?」など。
③どうすればよかったのかを考えさせる。
T:ということは、Bさん。
Aさんと遊ぶのはいいけど、ずるをしてほしくなかったのね。
B:うん。
T:じゃあ、どうやったら、それが伝わったかな。
B:「入っていいよ。でもタッチされたらちゃんと鬼になってね。」って。
T:そうだね。そう言ってたら、伝わったかもね。
今、実際に言ってみたら伝わるんじゃない?
B:おにごっこいっしょにやろう。でもタッチされたらちゃんと鬼になってね
A:うん。わかった。ぼくも叩いちゃってごめんね。
T:Aさんは、どうしたら、鬼ごっこにいれてほしいって伝わるかな?
A:叩くんじゃなくて、「入れてっていう。」
T:それから?
A:ちゃんとルールは守る。
T:そうだね。そうすれば気持ちよくAさんも入れてくれるんじゃない?
T:実際にAさんに言ってみる?
A:今度からルール守るから、また一緒に鬼ごっこやろう。
B:いいよ。ルール守って楽しくやろうね。
A:ありがとう。
T:お互い、嫌な気持ちにさせようとしてるわけじゃないことが分かったね。こうやって、自分の気持ちを言葉で伝えるとちゃんと伝わるね。
〈ポイント〉
・このように話していけば、自然と、加害者側からの謝罪が出てくることが多い。そうすると、被害者側も心からの謝罪と受け入れられる。
・どうすればよかったかを振り返りながら、その流れで実際にこれからどうするかという未来志向に話を展開させる。
全体を通したポイント
・まずは、子どもの心を開かせることに注力し、共感と肯定的な姿勢を貫く。
・全体を通して、教師が何かを教えるというよりかは、リードしていくような役回りが良い。
・もし、両者が感情的になっていたら、授業が終わった後の休み時間など落ち着いて話せるまで時間を空けた方がよい。
まとめ
このように、短時間で、子どもの心に寄り添い、学びある話し合いにするためには、教師が決めつけるのではなくて、話を進めていくファシリテーターのようにふるまうことが大切である。
そして、
①両者の気持ちを聞く
②自分がその気持ちにしてしまったと思うことを聞く
③どうすればよかったかを考えさせる
という簡単な3ステップの通りに話を進めていけば、大抵のトラブルは5分以内で解決できるであろう。
もちろん、1対1のトラブルではなくて、複数の間でのトラブルはもう少し時間を要するであろうが、一般的なやりとりより時間は短くなる。
また、記録に残さなければいけない場合や、問題が複雑になってしまった場合には、他の教員と話を聞いたりメモに残す等をおすすめする。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また、拙著『ゆる先生になろう』もぜひ合わせてお読みください。