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中国語小説の翻訳教室――神の代弁者になるために(『永不瞑目』15−21章)

 欧陽蘭蘭の父、欧陽天は娘の情熱に負け、肖童との交際をついに認めます。彼女は肖童を車に乗せ、父が待っている北京市近郊の別荘(本当に別荘)に向かいます。家に入ると、欧陽天の仕事を手伝っている黄万平という中年男性が迎えてくれました。しばらくすると、彼は肖童を一人で、二階の書斎に上がらせます。ここからはインテリアデザイナーでもある作者、海岩が最も得意とする、室内の風景描写になります。長く難しく挫けそうになりますが、気合を入れて翻訳していきましょう。

【原文】

 正对着楼梯有扇房门。和楼梯的狭窄恰成对照,那门又宽大得不成比例。门半开半掩,肖童敲了敲,无人应声,他便大大方方地推门而入。这是一间光线黑暗的书房,和楼下客厅的浮华相比,这里又显得古朴有余。通天到地的书橱上,略嫌繁复地镶满古罗马风格的雕花木饰,不无刻意地强调着一种贵族式※1的陈旧。写字台置于窗前※2,宽大而厚重。遮光窗帘※3拉得严丝合缝。头上低低地悬垂着半亮的青铜吊灯,光线的萎靡不免使这屋子有了几分昼夜不分晨昏不辨※4的陈腐气和颓废感。倒是写字台右侧安装的一台电脑,赫然示意出房间主人所处的时代。

 屋里一个人也没有,但能听见隔壁卫生间里,有冲水的声音。肖童身边,一只仿旧的皮制沙发,显然※5也是模仿了三十年代的样式,且磨损的皮面和褪漆的木框,都逼真得恰到好处※6,像摆在角落里的一个陈年的故事。他犹豫着不知自己该不该在此坐下。

【和訳】

 階段に向かってドアがある。階段の狭さとは対照的にドアは幅広で大きく、バランスが悪い。ドアは半開きだ。肖童はノックをしたが、誰も返事をしないので、大手を振るように堂々と押して入る。そこはうす暗い書斎で、一階のリビングのきらびやかさと比べ、古めかしさと質朴さが目立つ。天井から床に至る本棚は、やや複雑な古代ローマ風の彫刻で縁取られ、シック※1で古風な趣を強調しようと意匠が凝らされている。デスクは窓のそばに置かれ※2、広々とし重厚感がある。厚手のカーテン※3はすき間なく閉じられている。頭上にはうす暗い青銅のランプが低くつり下げられ、照明の頼りなさのために、この部屋には昼夜の区別を失った※4古臭さと退廃的な感覚が生まれた。ところがデスクの右側に置かれたパソコンは、部屋の主が置かれている時代をありありと示している。

 部屋には誰もいないが、隣のバスルームでは水を流す音がする。肖童のそばには、アンティーク調の革ソファーがあり、やはり三十年代の様式をまねた物だ※5。また擦れ跡がついた表面と漆のはげた木枠は、どちらも真に迫り本物さながらで※6、目立たぬ所に置かれた古き良き時代の思い出のようである。彼はここに座るべきかためらっていた。

※1 直訳は「貴族的な」。意味はやや異なるが、ここは「シック」にした方が日本語らしい。

※2 「窓の前」と直訳しない。

※3 光を遮るカーテンなので、レースのカーテンでないことは明らか。

※4 同じ意味を違う言葉で繰り返しているが、無理にすべて訳出しない。原文では後の「陈腐气和颓废感」と揃えて二つにし、リズムを整える狙いがあるか。

※5 「まねた物だ」と断言することで、「显然」のニュアンスを出す。

※6 「恰到好处」は、程よいこと。翻訳家泣かせの表現で、意訳が必要。

 凝った内容を本格的に和訳しようとする場合、専門用語や適切な名詞・形容詞を意識的に用いる必要があります。これができないと、言葉足らずで素人じみた印象を与えてしまいます。直訳は多くの場合、無知と怠惰の証明になりますので注意しましょう。

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