精神的体幹を鍛える
夏休み、静岡は浜名湖に旅してきました。近くてなかなか行かない、浜名湖。
無目的にのんびりしたいという期待だけで決めた旅行先。そんな旅ほど、自分が無意識に求めていたものが与えられたりすることもあります。
浜名湖は海の水が混じる汽水湖。天然、埋め立ての小さな島が散らばり、その島々を繋ぐように大小の橋が架かる風景は東海道五十三次で見たことがあるような。夕陽の沈む時間帯は湖水全面がキラキラと光を放ち幻想的。
冒険家、海の生物との出会い
そんな浜名湖で、カヤックの専門家に出会いました。鈴木克章さん。「日本は本当に島国か?」を確かめるために手漕ぎカヤックで日本一周をしたという冒険家さんです。
浜名湖の弁天島からボートで数分の無人島“いかり瀬”にて、鈴木さんからカヤック操縦のいろはを教えてもらった私と娘。ゴカイ、ミズクラゲなど海の生物たちと遭遇しながら、誰もいない浅瀬の海を漕いでゆく。夏休みなのに、私たち以外誰もいない海。素人だけでは来られない場所。
「一人でやらせることが大事なんだ」
私は操縦というものが大の苦手で車の運転もできないのでカヤック操縦も案の定ド下手でしたが、それでも30分くらいパドルを動かしていると二人乗りのカヤックがそれなりに前に進み、曲がれるようになる。進むこと以外は何も考えない。これもまた瞑想の一種だなと思う。
ライフジャケットに身を委ねてごろんとあたたかすぎる海水に浸かりながら、20年前から海の異変を感じているという冒険家の話を聞く。そして、そんな冒険家は教育者でもあり、二人乗りカヤックの操縦を身につけた娘を一人乗りのカヤックに乗せて、一人旅をさせる。「一人でやらせることが大事なんだ」と。
SUP(サップ)で感じる中心軸
一人乗りカヤックであっという間に出発地点まで帰って行った娘。ちょっと勇ましくなって、サップもやってみたいと。
サップは平面でカヤックのように座る場所もない上級者向けの乗り物。慣れれば立って漕げるようになるのだとか。
そんなサップに娘に負けじと私も登ってみる。乗ってみてわかるのは、サップは中心軸を取らないとすぐに重心が崩れて倒れるということだ。中心軸、それはヨガで、書道でいつも意識させられていること。体幹。ああ、これもまた体幹。
ヨガをやっていると言うと、「じゃあ太陽礼拝やってみて」と無茶振りの鈴木先生。とりあえずやってみたけれど、地上のようにできるものではありませんね、とにかくゆっくり、ゆっくり。ドボンと水に沈んでしまわないように。
精神的体幹、それは中道
サップはヨガよりも書道よりも、否応なしに中心軸を意識させてくれる。「体幹を鍛えることは全てに通じますね」と言うと、鈴木先生は「精神的体幹も必要だと思います」と。
精神的体幹ーーー。私の理解にはなるが、それは「中道」。右にもよらず左にもよらず、両者を知りながら穏健に間を歩いていく力。中国では儒教という社会を作るための思想と、老荘もしくは仏教という個人の幸福を重んじる思想が両極に存在し、社会の一員としての成長を促しながら、落ちこぼれも救いきるセーフティネットが働いていた。どちらも大切という思想。
厳しさもやさしさも大切
思春期ふたりの子どもを持つ親としても、最近、この「両極を重んじながら間をとる姿勢」が大切なのではと考えている。平たく言えば、「厳しさもやさしさも大切」ということになる。が、日々実践することは易からず。
浜名湖という東京から2時間の異空間。人間にはまだ理解しきれない不思議な生き物たちと接しながら、物理的に中心軸をとらされる体験を通して身体的・精神的体幹の大切さを思い知った私です。
これもまたきっと書の道、と思いながら。