見出し画像

レモネード

彼女が作るレモネードは、店で買うより甘ったるくて、そもそも甘いのが好きじゃない俺にはとても飲めなかった。

甘すぎないか? と彼女に訊くと、笑いながらわざとよ、返す。

「甘くしておくとあなたは飲めないでしょ? 私が独り占めできるのよ」

冷蔵庫には、あまいあまい、レモネードが一ヶ月間放置されたままだ。

彼女が居なくなってから誰も手をつけなくなったそれは、未だに綺麗な色をしている。

「独り占めするんじゃなかったのかよ」

一人つぶやいてから、覚悟を決めて、俺はそのレモネードを口に流し込んだ。

喉に粘りついた違和感を無視して、すべてを一気に飲み干した。

まるで、彼女を自分の体内に取り入れるみたいに。

これで胃の中で甘くなった彼女が、微笑みかけてくれているだろうか。

いいなと思ったら応援しよう!