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二人の冷蔵庫

「冷蔵庫どうする?」

ふいに、ひんやりと冷たい声で彼女が訊いた。

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同棲を始める際、まず最初に二人で買いに行ったのが冷蔵庫だった。

実家から出てきた彼女はもちろん冷蔵庫など持っていないし、一人暮らしの僕の家にあった冷蔵庫は二人分の食料を保存するには心許ない。

経済的に余裕があったわけでもなく、とりあえず機能よりも容量を重視して選んだ。

彼女はデザインを重視したがっていたが、値段の面で折り合いが付かず渋々といった感じだったけれど、それでも二人で初めて買った物ということもあって、とても大切にしていた。

料理好きな彼女であるから、冷蔵庫はいつも満杯だった。

冷蔵はもちろん、冷凍庫まで隙間なく詰まっていた。

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「あたし、実家に帰るからいらないよ」

その一言が、何故か強烈に胸を抉った。

ーーいらないよ。

冷蔵庫を自分と重ねてしまったのかもしれなかった。

「じゃあこっちで使わせてもらうよ」

どうでもいい、とでもいうように彼女はまた自分の荷物の整理を再開した。

ありがとう、とは言えなかった。

ーーーーー

久しぶりの一人暮らしは、とにかく快適だった。

一人の時間を邪魔されることもなければ、部屋が彼女の趣味で埋め尽くされる事もない。

たまの休みは昼頃まで寝ていられた。

二人で暮らしていたらこうはいかない。

まだ重たい瞼をこすりながら喉の渇きを感じて、冷蔵庫を開ける。

ソースにケチャップにマヨネーズ。

必要最低限の調味料と、思い付きで買った卵とチーズと鶏胸肉。

あとは飲料水だけだ。

ガラガラになった冷蔵庫からペットボトルの水を一つ取り出す。

隙間なく詰まった冷蔵庫が一瞬フラッシュバックして頭を振る。

まるで冷蔵庫が心の中を表しているみたいで腹が立った。

隙間などない。そう言い聞かせて、一人暮らしには似つかわしくない大きな冷蔵庫の扉を思いきり閉めた。


フォロワーさんがやってて楽しそうだったので、思いつきで参加してみました😄

小説はちょっと企画と違うのかもしれないですけど、それ以外で参加できそうにないので主催者様許してください笑(ダメならスルーして頂くということでごめんなさい🙏)



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