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誰でも使える交渉術! ストーリー#7
前回まで
帰宅した武井は、商社に勤める恋人の美優から「大阪出張中に取引先との交渉が難航している」と聞かされる。納期短縮と追加注文の要求に対し、美優のチームは対応に苦戦していた。武井は自分なりにアドバイスを試みるが、現場の難しさを実感し、自分の未熟さに悔しさを覚える。その後、彼は千田のやり方を思い出しながら、具体的な解決策をノートに整理。美優の助けになればと、まとめたアイデアをメールで伝えることに決める。
第七話
青は20分ほどで美優宛のメールを書き終え、数回読み直すと送信ボタンを押した。
時計を見ると、23時をまわっていた。
(明日も早い。そろそろ寝ないと。)
本山自動車の技術部長から千田宛に届いたメールの内容の要望に応えるための案は、一通りまとめ上げていた。本山側の要望は、一部部品の仕様変更に関するものだった。武井は可能な対応策をいくつかの選択肢に分けて整理した。
武井はこれらの提案内容をデータとともにまとめた。
(明日、千田さんにこれを見てもらえば、来週早々には打ち合わせが設定できるだろう)
翌朝
朝早くに会社へ着いた武井は、まず自分のデスクに資料を置き、千田のデスクへと向かった。千田は既に出社しており、何やらファイルを整理しているところだった。
「おはようございます、千田さん。少しお時間よろしいでしょうか?」
千田は振り返り、軽く頷いた。「おはよう、武井。どうした?」
「昨日、本山自動車の技術部長からのメール内容についてですが、私なりに一通りの対応案をまとめました。こちらが資料です。一度目を通していただければと思います。」
武井は千田に資料を手渡し、少し緊張した様子で待っていた。千田は資料に目を落とし、内容をざっと確認した後、顔に少し微笑を浮かべた。
「なるほど、よく整理されているな」
千田は資料を閉じて、武井を見た。「これをベースに提案をまとめよう」
武井は少しホッとした表情を浮かべた。「ありがとうございます。できるだけ迅速に対応したかったので」
「午後には正式な提案書を仕上げていこう。先方に確認して、来週の初めに打ち合わせの予定を入れられるように進める。」
「わかりました!」武井は力強く返事をし、デスクに戻った。
昼休み
その日の昼休み、武井は食堂で千田と偶然顔を合わせた。千田はコーヒーを片手に、窓際のテーブルに座っていた。武井も軽く食事を済ませ、コーヒーを持って千田の隣に腰を下ろした。
「おお、武井か」と千田が声をかける。
「はい.. この後よろしくお願いします。千田さんのアドバイスのおかげで、スムーズに進められそうです」武井は笑顔を見せた。
… ふと美優のことを思い出した。
「実は、ちょっと相談があるんです、個人的なことなんですが…」
武井は少し躊躇した後、話し始めた。「友人が、商社の営業をしているんですが、今大阪で取引先との交渉に苦戦していて、昨日の夜に少し話を聞いていたんです。」
「ほう?」
千田は興味を示し、武井の話に耳を傾けた。
武井は、美優、友人が急な契約変更の要求に対応していること、納期短縮や追加注文が現実的ではないと感じていることを説明した。そして、自分なりにアドバイスをしたものの、それがどれだけ役立つかはわからないと伝えた。
千田はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「なるほどな…簡単じゃない状況だが… お前のアドバイスも悪くはない。ただ.. 」
「 …. 」
「ひとつだけ補足しておこう。」
「補足ですか?」武井は身を乗り出した。
「そうだ。取引先の担当者だけが決定権を持っているとは限らない。時には、裏で本当の決定を下している人物がいることがある。キーパーソンを見極め、その人の意図を探ることが重要だ。」
「キーパーソン…」武井は思わず頷いた。「確かに、それを考えていませんでした」
「お前もわかっているように、交渉は表面上のやり取りだけじゃない。相手の背後にある背景や、真の意思決定者を見極めることが大事だ。それができれば、美優さんも状況を少し有利に進められるかもしれない」
武井は千田の言葉に感謝し、すぐにその助言を美優に伝えようと決めた。
その日の午後、武井はデスクに戻り、短いメッセージを美優に送った。
「美優、もう一つだけ提案なんだけど、相手のキーパーソンを見極めて、その人が何を考えているのか探ってみると良いかもしれない。現場の担当者だけではなく、裏で決定権を持っている人の意図を考えると、新たな打開策が見つかるかもしれない。少しでも参考になればいいんだけど。」
すぐに返信が来た。
「ありがとう、青くん。確かに。打ち合わせは2時からだから、これからチームで話し合ってみるね」
武井はそのメッセージを見て、ホッと息をついた。
昨晩からの仕事が一区切り終わった感覚だ。
自分のデスクでPCに向かい、さまざまな雑務をこなしていると、背後から千田の声がした。
「武井! 行くぞ、第3会議だ。」
武井は慌てて立ち上がり、「あ、はいっ!」と答えて、デスクの傍に重ねてあった資料を、バサバサと集め始め、立ち上がった。
…