誰でも使える交渉術! 『俯瞰してみる』
交渉において『俯瞰して見る』ことは、非常に重要なスキルです。
『鳥の目で見る』と言い換えても良いでしょう。
これは、交渉の全体像や背景、関係者の意図や状況を広い視野で捉えることであり、短期的な利益や目先の問題だけに囚われず、長期的な成功や信頼関係を築くために必要なアプローチです。
俯瞰して見る重要性のポイント
全体像の把握
交渉では、当事者間の具体的な要求や提案に集中しがちですが、それだけでは背景にある真の課題や目的を見落とす可能性があります。俯瞰することで、交渉がなぜ必要なのか、どのような文脈で行われているのかを理解できます。
利害関係者の視点を理解
自分の立場だけでなく、相手方やその他の利害関係者の意図や制約を想像し、それぞれが望む結果を整理することで、相手の立場に立った提案や解決策を考えやすくなります。
感情的な判断を避ける
交渉中に感情的になったり、予期せぬ障害に直面すると冷静さを失いがちですが、俯瞰する視点を持つことで、状況を冷静に分析し、適切な行動を取る助けになります。
創造的な解決策の発見
俯瞰的に物事を見ると、従来の枠組みや制約を超えた新しい選択肢や妥協案が見つかることがあります。これにより、双方が満足する「ウィンウィン」の解決策を生み出す可能性が高まります。
長期的な影響の評価
短期的な成果だけでなく、その交渉が将来に与える影響(例えば、関係性の維持、信頼の構築、次の交渉への影響)を考慮することで、戦略的な選択が可能になります。
俯瞰するための具体的な方法
第三者の視点を持つ
自分が当事者ではなく、観客やアドバイザーだと仮定して、状況を分析してみる。
目的を明確にする
この交渉の本質的な目的は何かを常に意識し、短期的な勝利と長期的な成功を区別する。
情報を整理する
利害関係者、利点、欠点、リスクを整理し、客観的なデータを基に判断する。
他の交渉事例を参考にする
類似の交渉事例を俯瞰的に学ぶことで、パターンや成功例を理解する。
俯瞰する視点を持つことは、交渉の成功率を高めるだけでなく、交渉者としての信頼性や実力を高める重要な要素です。このスキルを磨くことで、より戦略的かつ効果的な交渉が可能になります。
また、俯瞰する視点を持つ癖は徐々に身についていきますが、そのためには、身につく前から定型的な手法に従って、毎回の交渉準備で実行することです。あれもこれも、交渉に関しては毎回触れていますが、交渉は『準備』が全てです。
では、どのように準備するか?
俯瞰するとき、交渉全体の目的を明確にすると言う点に関して具体的な進め方を見ていきましょう。
交渉の目的を明確にすることは、建設的結果への第一歩です。そのためには、準備段階で詳細かつ戦略的な計画を立てることが不可欠です。以下では、目的を明確にするための交渉準備について説明します。
1. 交渉の目的を整理する
交渉の目的は、単なる「目標」ではなく、交渉全体の根幹を成す指針です。次のステップを通じて整理します。
主目的(Primary Goal)
交渉によって絶対に達成したいことは何かを明確にする。
例:価格の合意、新しい契約条件の確立、信頼関係の構築など。
副目的(Secondary Goals)
交渉の中で達成できれば良い追加的な目標を設定。
例:今後の提携に向けた布石を打つ、競合状況を把握するなど。
最悪の結果(BATNA: Best Alternative to a Negotiated Agreement)
交渉が決裂した場合に取るべき代替案(最善の次善策)を明確にする。
例:他の供給業者への切り替え、スケジュール変更の検討など。
2. 相手の目的を予測する
交渉は一方的ではなく、相手も何らかの目的を持っています。相手の目的を理解することで、より効果的な提案や交渉の進め方を計画できます。
相手が得たいものは何か?
コスト削減、納期短縮、新しい市場の獲得など、相手の主目的を予測。
相手の制約や優先事項は何か?
予算、人員、時間など、相手の置かれた状況を分析。
相手のBATNAを想定する
相手が交渉を断念した場合に取りうる代替策を考える。
3. 目標を具体化する
曖昧な目標ではなく、測定可能で具体的な目標を設定します。
SMARTの原則に従う
Specific(具体的):目標を明確に。
例:「契約金額を現状の10%引き下げる」
Measurable(測定可能):結果を評価できる。
例:「年間コスト削減額として100万円」
Achievable(達成可能):現実的である。
例:「契約条件変更は次期更新時に限定」
Relevant(関連性がある):目的に合致している。
例:「競合よりも有利な条件を確保する」
Time-bound(期限がある):明確な期限を設ける。
例:「来月末までに契約を締結」
4. 利害関係をマッピングする
交渉に関わる全てのステークホルダーを特定し、それぞれの関心事項や影響を整理します。
関係者リストを作成
主な交渉相手だけでなく、背後にいる意思決定者も把握。
利害の分析
各関係者の利益(得たいもの)と懸念事項(避けたいもの)をリスト化。
優先順位付け
重要度の高い関係者の目的を重視し、交渉内容を調整。
5. 情報収集を徹底する
目的を明確にするためには、十分な情報収集が必要です。
相手企業や個人の情報
財務状況、過去の取引実績、業界内の評判など。
市場や競合の状況
現在の市場価格、業界のトレンド、競合他社の動向を調査。
過去の交渉履歴
過去の成功例や失敗例を分析して、教訓を活かす。
6. シナリオを設計する
交渉が進むにつれて状況が変化する可能性を考慮し、複数のシナリオを準備します。
理想的なシナリオ
目標が全て達成されるケースを想定し、最適な戦略を描く。
妥協可能なシナリオ
一部の目標が達成される場合に備え、譲歩の範囲を決定。
最悪のシナリオ
合意に至らない場合の行動計画を準備。
7. 目的を共有するかを決める
交渉の目的をどの程度相手に共有するかも戦略の一部です。
全てを共有
信頼関係を強化するため、主目的をオープンにする。
部分的に共有
主目的の一部や副目的を伝え、柔軟性を示す。
非公開
相手に余計な交渉材料を与えないため、目的を隠す。
交渉準備の段階で目的を明確にしておくことで、交渉中の迷いやぶれが少なくなり、相手と建設的なやり取りができる可能性が高まります。このプロセスを通じて、より自信を持って交渉に臨むことができるでしょう。
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