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損失回避のバイアス

損失回避バイアス(Loss Aversion Bias)について

損失回避バイアスは、心理学や行動経済学で広く知られている現象で、人々が利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みをより強く感じる傾向を指します。このバイアスは、意思決定のプロセスにおいて重要な役割を果たし、特にリスクを伴う状況で顕著に現れます。

損失回避バイアスの基本的な特徴

  1. 損失の影響は利益よりも大きい
    一般に、同じ額の損失と利益では、損失の方が心理的に強いインパクトを持つと言われています。これは有名ですね。

    • 例えば、1万円を得るよりも、1万円失くしてしまうショックの方が大きい。

  2. 現状維持バイアスと関連
    現状を維持し、潜在的な損失を回避しようとする傾向。これにより、新しい選択肢への挑戦が抑制されることがあります。

  3. 損失を避けるために非合理的な行動を取る
    損失を回避しようとするあまり、論理的ではない行動や選択をすることがある。

例として、2の「現状維持バイアス」に関連し、次の事例を見ていきます。

システムおよびワークフローの変更提案

現行のシステムやワークフローを変えることへの抵抗。特に、慣れ親しんだ方法を捨てることが「損失」として認識される場合があります。

次の会話を見てみましょう。

背景設定

  • システムを提案する企業 A社
    クライアント企業(B社)に新しいERPシステムを導入する提案をしている。

  • システム導入を検討するクライアント(B社)
     現在のシステムに満足しているわけではないのだが、変更によるリスクを恐れている。


1. 損失回避バイアスによる抵抗が表れる場面

A社営業担当(提案者): 「現在お使いのシステムでは、在庫管理や売上データの処理に時間がかかっていると伺っています。弊社の新しいERPシステムを導入すれば、処理速度が大幅に向上し、業務効率化が期待できます。」

B社担当者(クライアント): 「確かに効率化できそうですが、現行のシステムは5年以上使っているので慣れていますし、問題があっても対処方法を把握しています。新しいシステムを導入して万が一トラブルが発生したら、その対応に時間やコストがかかるかもしれないと心配です。」

A社営業担当: 「その点については、導入サポートやトラブルシューティング体制を整えていますので、リスクは最小限です。」

B社担当者: 「慣れたシステムを捨てて新しいものに移行するのは大きな決断ですし、全員が新しいシステムを使いこなせるか…」


2. バイアスを修正する説得

A社営業担当:ご懸念の点、よく理解できます。慣れたシステムからの移行は確かにリスクに感じるものですよね。ただ、少し視点を変えてみていただけますか?現状のシステムを継続することで、今後5年間でどのくらいの非効率によるコストが発生するかを試算してみました。」

(ここで、現状のシステムでは年500万円の非効率コストが発生し、新しいシステム導入後にはそのコストが半減することを示すデータを提示。 損失に訴えかけるのは交渉として有効そうです)

A社営業担当: 「現状のままですと、毎年500万円の無駄なコストが積み重なり、5年で2500万円になります。一方、新しいシステムは初期投資が800万円ですが、初年度から250万円のコスト削減が可能です。初期投資を考慮しても、2年目以降はすべて純粋な利益となります。」

B社担当者: 「それは興味深い数字ですね。移行期間中に業務が滞ることが心配ですが、その点は?」

A社営業担当: 「その点も対応策があります。まず、移行は段階的に進め、既存システムとの並行稼働期間を設けます。さらに、弊社のエキスパートチームが現場でサポートを行いますので、スムーズな移行が可能です。実際に同じ業界の他社様で導入した際の成功事例もご覧いただけます。」

(ここで、他社の成功事例を提示)

B社担当者: 「なるほど。段階的な移行が可能なら、業務に支障が出るリスクは抑えられそうです。」

A社営業担当: 「ありがとうございます。また、導入後のサポートについても、初年度は無償で提供し、従業員のトレーニングプログラムも無料で実施しますので、安心して始めていただけます。」

B社担当者: 「それなら大丈夫かな。初期投資に対する回収計画もわかりました。では、具体的な移行スケジュールを検討させてください。」


3. 説得成功のポイント

  1. 損失回避の心理をデータで打ち消す

    • 現状維持が「損失」につながることを具体的な数字で示した。

  2. リスク軽減策を提示

    • 並行稼働期間や専門チームによるサポートを約束し、移行リスクを低く感じさせた。

  3. 他社の成功事例を活用

    • 客観的な信頼性を高め、変化への不安を和らげた。

  4. 短期的利益を強調

    • 投資回収が早いことを示し、長期的な利益を視覚化した。


損失回避バイアスにより起こる抵抗は、客観的なデータや成功事例、リスク軽減策を組み合わせた説得によって克服できます。このように、相手の視点に寄り添いつつ、現状維持のリスクを客観データに基づいて、かつ正確に見えるように示すことが重要です。


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