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2つの交渉戦略を組み合わせる

Distributive Negotiation(分配型交渉)とIntegrative Negotiation(統合型交渉)の違い


交渉戦略を理解するうえで、『分配型交渉』と『統合型交渉』を把握することはとても重要です。
Distributive negotiation(分配型交渉) aims to divide a limited resource (e.g. money, time) among parties and focuses on each party's individual interests. Integrative negotiation(統合型交渉) aims to create mutual gain and find solutions that meet the needs of all parties involved by considering their common interests.

別の言葉で言えば、分配型交渉は"Win-Lose型"、統合型交渉は"Win-Win型"です。

全ての交渉は、Win-Win型を目指すべきだと思います。
すなわち、交渉の中で新しい解決の道を見つけ、お互いの利益になるような結果を得ることです。

しかし、交渉は必ずしもこのような理想に沿う場面だけではありません。

したがって現実には、分配型と統合型をうまく組み合わせて交渉を進めることが現実的な最適解になることが多くなります。

これらは交渉の目的、アプローチ、成果の分配方法において異なる特徴を持っていますので、それぞれを、しっかり理解しておくことは、とても大事です。


1. 分配型交渉とは

定義

限られた資源(パイ)をどのように分け合うかを目的とした交渉です。このパイは固定されており、「ゼロサム・ゲーム」(片方が得ればもう片方が失う)に基づいています。

  • 目的: 相手から可能な限り多くを獲得すること。

  • アプローチ: 競争的・対立的な姿勢が強い。

  • 交渉の焦点: 価格、数量、納期などの具体的な条件。

  • 戦略: アンカリング(初期提案で有利な基準を設定する)、強硬な立場、譲歩の管理など。

例えば、

  • 価格交渉:
    自動車購入時に、ディーラーと顧客が価格を巡って交渉する場面。どちらかが得をすれば、もう一方は損をする。

  • 給与交渉:
    雇用者と求職者が給与額について交渉するケース。

交渉のポイント

  • BATNA(交渉決裂時の代替案)の重要性が高い。

  • 短期的な関係が多く、相手との長期的な信頼構築は二の次。


2. 統合型交渉とは

定義

交渉当事者が「Win-Winの結果」を目指し、価値を創造(パイを拡大)することを目的とした交渉です。単なる分配ではなく、双方の利益を最大化することを目指します。

特徴

  • 目的: 双方の利益を最大化すること。

  • アプローチ: 協力的、問題解決型の姿勢。

  • 交渉の焦点: 相互のニーズ、関心、価値観を深掘りする。

  • 戦略: 相手の立場を理解する、オプションの創出、共同問題解決など。

例えば、

  • 業務提携交渉:
    企業同士が共同プロジェクトの進め方や利益分配について話し合う場面。互いの強みを活かして、新しい市場価値を創造することが目的。

  • 労使交渉:
    労働環境の改善や福利厚生について、企業と労働組合が協力して双方にメリットのある解決策を探る。

交渉のポイント

  • ZOPA(合意可能領域)を広げることが重要。

  • 長期的な信頼関係の構築が前提となることが多い。

3. 実務での応用ポイント

実際のビジネス交渉では、完全にどちらか一方の型に当てはまることばかりではありません。多くの場合、以下のようなハイブリッド型の交渉に持ち込むことが現実的です。

例を挙げれば、

  • 価格交渉(分配型) + 長期的パートナーシップ構築(統合型)

  • 契約条件の取り決め(分配型) + 新規ビジネスモデルの提案(統合型)

したがって、重要なのは状況に応じて戦略を柔軟に使い分ける能力です。
交渉相手や目的、環境に応じて適切なアプローチを選択することが、交渉成功への鍵となります。


  • 短期的な利益を狙うならディストリビューショナル交渉

  • 長期的な関係性や価値創造を狙うならインテグレイティブ交渉

両者の違いを理解し、適切に使い分けることで、交渉力がさらに強化されます。

<交渉の例>

最後に、メーカーの工場設備購買担当者(Aさん)と設備サプライヤーの営業担当者(Bさん)の間で行われる、「価格交渉(分配型)+ 長期的パートナーシップ構築(統合型)」を組み合わせた交渉の会話例を見てみましょう。


状況設定

  • メーカー(Aさん)
    新しい生産ラインに必要な設備を購入予定。コスト削減が求められているが、今後も同じサプライヤーとの長期的な取引を視野に入れている。

  • サプライヤー(Bさん)
    高品質な設備を提供しており、利益率も確保したい。一方で、メーカーとの継続的な取引拡大を目指している。


交渉の会話例


Aさん(メーカー購買担当):
「Bさん、今回のご提案、性能面では非常に満足しています。ただ、コスト削減目標が社内で厳しく設定されており、正直このままの金額では難しいです。もう少し価格について柔軟に対応いただけないでしょうか?」


Bさん(設備サプライヤー営業):
「ご期待いただきありがとうございます。今回の設備は最新技術を搭載しており、コストパフォーマンスは市場でも競争力があると自負しています。しかし、長期的なパートナーシップを考えれば、調整の余地はあるかもしれません。具体的にどの程度の削減をお考えでしょうか?」


Aさん:
「目標としては現行の提示価格から10%の削減が必要です。」


Bさん:
「10%はなかなか大きな数字ですね…。
ただ、もし今後の定期的なメンテナンス契約追加設備の発注計画も視野に入れていただけるなら提案があります。例えば、今回の設備単価は5%削減ですが、メンテナンス費用を割引するプランはいかがですか。」


Aさん:
「なるほど。メンテナンス費用の割引は魅力的ですし、私たちとしても設備の稼働率向上に直結します。今後予定している第二工場のライン増設計画も視野に、より包括的なパートナーシップとして検討できますね。」


Bさん:
「ありがとうございます。それなら、今回の取引を起点に、第二工場の計画も含めた包括的な価格体系を再設計してお持ちします。この形であれば、長期的なコストメリットもご提供できますね。」


Aさん:
「それなら社内にも提案しやすいです。その方向で詳細を詰めましょう。」


解説:交渉のポイント

  1. 分配型交渉(価格交渉)

    • Aさん: 直接的なコスト削減要求(10%削減)。

  1. 統合型交渉(長期的パートナーシップ)

    • Aさん: 今後の取引拡大(第二工場の計画)を交渉材料に。

    • Bさん: メンテナンス契約や包括的な価格体系でWin-Winの提案。

  2. 交渉戦略

    • ZOPA(合意可能領域)を広げ、単なる価格交渉から「長期的なメリットのある提案」に発展。

    • お互いのBATNA(交渉決裂時の代替案)を意識しつつ、妥協点を探る。


短期的な価格交渉(分配型)と、長期的な関係構築(統合型)を組み合わせることで、単なる「値引き」以上の付加価値を生み出しています。






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