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交渉:3つの基本と その効果 (その3)

交渉の基本 3つの要件、その3つ目は、「交渉力は準備することで増大される」です。

* 1と2は以下を参照ください



今回は、準備の大切さについて考えていきましょう!✨

交渉力は準備することで増大される理由

交渉力は、単にその場での発言力より、むしろ徹底した準備によって大幅に高めることができます。準備とは、交渉の内容や相手の背景を深く理解し、様々なシナリオを想定して対策を講じるプロセスです。準備の重要性とその具体的な内容をみていきましょう。


1. 準備の重要性

準備が重要である理由は、次のような効果が得られるためです。

確実性を高める

  • 十分な準備があると、交渉中に突発的な質問や異議に直面しても冷静に対応できます。

  • 交渉の確実性を高めるためのシナリオがあることは、同時に自信がある態度につながります。これは相手にも伝わり、説得力や信頼感を高める要因となります。

柔軟性の向上

  • 複数のシナリオを想定しておくことで、交渉中の予期せぬ状況にも柔軟に対応できます。

  • 代替案(BATNA)を用意することは必要最低限の順位です。これにより交渉が行き詰まった際も、冷静に別の選択肢を提示できます。

説得力を強化

  • 準備段階で収集したデータや根拠に基づいた交渉は、説得力を格段に高めます。

  • 「事実」に基づく主張は、感情的な議論に陥ることを防ぎます。脱線し、混乱しそうになった時も、事実に立ち返ることはより冷静な議論を進め、相手に受け入れられやすくなります。事実の整理は準備段階でしっかり行っておくべき最重要なポイントです。


2. 準備の具体的内容

(1) 目標と優先順位の明確化

  • 自分が交渉で何を達成したいのかを明確にし、譲れないポイント(非交渉項目)と譲歩可能なポイントを整理します。

    • 例: 売却価格の上限や納期の変更など。

  • この準備により、交渉の焦点を見失わず、一貫性を保つことができます。

(2) 相手のニーズと背景の分析

  • 相手のニーズや関心事項、業界トレンド、会社の状況を調査します。

    • 例: 相手企業の財務状況や市場での競争ポジションを把握。

  • これにより、相手にとって魅力的な提案を行い、合意形成を促進します。

(3) BATNA(代替案)の準備

  • 自分のBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement、交渉が不成立だった場合の最善の選択肢)を把握しておくことが重要です。

    • 例: 相手が価格を譲らない場合、他のサプライヤーから購入する準備を整える。

  • これにより、交渉が行き詰まった際に無理に妥協せず、有利な立場を維持できます。また、チームで交渉する場合、BATNAを事前に共有しておくことは重要です。

(4) データと証拠の収集

  • 交渉で使用する根拠やデータを収集し、整理します。

    • 例: 市場価格、納期の見積もり、製品の性能データ。

  • 相手に具体的な数値や事実を提示することで、信憑性が高まります。

(5) シミュレーション

  • 想定されるシナリオを基に交渉をシミュレーションし、質問や異議に対する答えを準備します。

    • 例: 相手が「価格が高すぎる」と主張した場合の対応案を事前に用意。

  • シミュレーションを行うことで、意外な気づきにつながることもあり、かつ、当日はスムーズな対応が可能になります。



3. 準備の成果としての交渉力の増大

迅速な意思決定

  • 十分な準備により、交渉中に即座に適切な意思決定を行うことが可能です。判断の迷いが少なくなります。

  • これにより、相手からの信頼を獲得し、交渉がスムーズに進行します。

信頼性とプロフェッショナリズムの向上

  • 準備不足が交渉相手に不信感を与えることは当然です。準備が行き届いていれば、信頼関係の構築に有利に作用します。

戦略的な対応力

  • 予測される相手の反論や主張に対して準備しておくことで、戦略的に有利な立場を築けます。


「交渉力は準備することで増大される」とは、単に場当たり的な対応に頼らず、事前の調査・分析・計画に基づくプロアクティブなアプローチを指します。
準備を通じて、自信を高め、柔軟な対応力を備えることで、交渉を有利に進めることが可能になる。ります。「準備」こそが、交渉の成功を支える最大の要因と言っても過言ではありません。


ケース:準備不足と準備万全の交渉


準備不足の交渉(失敗例)

会議室
本山自動車の担当者・中村(40代)が武井青を迎える。

中村: 「今日はよろしくお願いします。さて、今回の新規契約提案についてお話しいただけますか?」

武井: 「ありがとうございます。弊社の提案は、御社の要望に応じて、納期を短縮した形で製品を提供するものです。」

中村: 「具体的にどの程度の短縮を見込んでいるのですか?」

武井: 「通常のスケジュールより2週間程度短縮可能だと考えています。」

中村: 「その根拠に関して、具体的なデータはありますか?」

武井: 「ええ…これは現場からの見立てでして、まだ詳細な分析までは行えていませんが、現場と効率を上げる方向で調整しています。」

中村: 「どの工程で、どの程度の効率改善が見込めるのか、具体的な説明が欲しいのですが…  それと、価格についてもお伺いしたいのですが。」

武井: 「価格については現状維持でお願いしたいと考えています。ただ、市場価格に基づいて妥当だと考えています。」

中村: 「市場価格との比較データはありますか?」

武井: 「ざっくりとした調査は行っておりまして、資料は準備中です。」

中村: 「弊社ではこれくらいの価格以下でないと難しいと考えているのですが。」(資料を見せる)

<中村氏は、指値でアンカリングし、優位なポジションを取っている>

武井: 「… いや、それは厳しい数字ですね。 市場価格との整合性も取れません、弊社から提示できる価格はその辺りを踏まえてのことなので.. 」

中村: 「わかりました。それでは、一度詳細をまとめていただいた上で、再度お話しいただけますか?」

武井: (内心)「やっぱり準備不足だった…具体的な根拠がないと説得力がないな。」


十分な準備の交渉(改善例)

会議室
武井は、事前にデータ分析と詳細なシミュレーションを行い、具体的な資料を持参して再挑戦する。

中村: 「前回の内容から、どのような進展がありましたか?」

武井: 「ありがとうございます。まず、弊社の提案の全体像をご説明します。」
(資料を提示しながら)「こちらが今回のスケジュール案です。従来より2週間短縮する計画ですが、以下のデータをご覧ください。」
(根拠を提示)「この短縮は、組み立て工程のレイアウト変更による移動時間削減と、新しい検査機器の導入による検査時間の効率化によって達成可能です。」

中村: 「なるほど。そのレイアウト変更で、どの程度の時間削減が見込めるのですか?」

武井: 「こちらが具体的なデータです。」
(1次情報を示し)「組み立てラインの移動距離を30%削減することで、1工程あたり約15分の短縮が可能です。」
(さらに2次情報も補足)「このデータは他の製品事例ですが、実績でも裏付けられています。」

中村: 「それはわかりました。では、価格についてはいかがですか?」

武井: 「価格についてはこちらをご覧ください。」
(市場価格との比較表を提示)「競合他社の平均価格はXX円と推測していますが、弊社は同等性能でこの価格(資料を見せる)であれば提供可能です。ただし、開発費として若干プラスさせていただきます。御社技術部の佐竹課長からは合意をいただいておりますので、ご確認ください。」

中村: (笑顔で)「実は佐竹から聞いてますよ。わかりました、納期短縮と価格設定のどちらも具体的かつ合理的ですね。この案で今週の会議に掛けます。」

武井: 「よろしくお願いします。良いお返事、お待ちします。」


解説

準備不足(失敗例)の問題点

  1. 論拠の曖昧さ:

    • 「納期を短縮可能」と主張したが、具体的な説明や裏付けがなかったため、説得力に欠けた。

  2. 根拠の不備:

    • 「現場の見立て」や「市場価格に基づく」といった根拠がデータに基づいておらず、信頼性が低かった。

  3. 予測不足:

    • 中村が具体的な質問をすることを予測しておらず、十分な回答を準備できていなかった。


準備万全(改善例)の成功要因

  1. 論拠の具体性:

    • 「組み立て工程のレイアウト変更」「検査時間の効率化」といった具体的な説明で、中村に明確なイメージを提供。

  2. 根拠の明確さ:

    • 「移動距離30%削減」「競合価格との比較表」など、1次情報と2次情報を組み合わせた具体的なデータを提示。

  3. 質問を予測した準備:

    • 中村の質問を予測し、それに対応するデータや資料をあらかじめ用意していた。

  4. ピラミッドストラクチャーの活用:

    • 結論→論拠→根拠の順で、分かりやすく論旨を組み立て、説得力を高めた。


準備不足では主張の説得力を失い、交渉の進展が遅れる。一方、論拠を具体的に示し、信頼性のある根拠で補強することで、交渉相手を納得させることが可能になる。準備の重要性は、交渉の結果に直結します。




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