BATNAとZOPAの基本理解
年も新まり、『交渉戦略』について「基礎」からお話ししていきたいと思います。すでにご存知の方も、復習を兼ねて、ご参考にされてください。
まずは、交渉を学んだ方は聞いたことがあると思います、BATNAとZOPAについてです。これらは、実務上も十分使える思考ですので、是非、活用してください。
BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)とZOPA(Zone of Possible Agreement)の基本理解
交渉において成功を収めるためには、BATNAとZOPAを正しく理解し、それを基に戦略を立てることが重要です。
次に、それぞれの概念と実際の交渉での応用方法について説明します。
BATNA(代替案)の意味と重要性
BATNAとは、「交渉が成立しなかった場合の最良の選択肢」を指します。交渉の進行中、相手との合意に達するためには、自分のポジションがどの程度強いか、また代替案がどれほど現実的で有益かを理解しておくことが不可欠です。
目的: BATNAは交渉における最低限の許容条件を明確にするツールです。これにより、自分が譲歩すべきポイントと、譲歩すべきでないラインが判断できます。
『ある企業Aが顧客Bと価格交渉をしているとします。この企業Aには「別の顧客とのすでに合意された契約」があります。これが企業AのBATNAです。もし、現在の交渉相手(B)が提示する条件がこのBATNA(すでに合意された契約)よりも悪い場合、企業Aは顧客Bとの交渉をやめるという判断ができます。』
ZOPA(合意可能範囲)の概要
ZOPAは、「双方の利益が重なる範囲」を指します。この範囲内で交渉が行われれば、合意に達する可能性が高まります。一方、ZOPAが存在しない場合、すなわち「重なる範囲」が無い場合は、いくら交渉を続けても合意に至ることはありません。
計算方法: ZOPAは、交渉当事者それぞれの最低受け入れ条件(売り手の場合は最低価格、買い手の場合は最高価格)を基に推定されます。
例: 売り手が製品を「最低10万円で売りたい」と考え、買い手が「最高15万円までなら支払える」と考える場合、ZOPAは10万円から15万円の範囲です。
BATNAとZOPAの関係性
これらの概念は、交渉の全体像を明確にするために相互に関連しています。BATNAを強化することができれば、交渉のテーブルでの発言力が向上し、ZOPA内で有利な条件を引き出しやすくなります。一方、相手のBATNAやZOPAを理解する(知る)ことも、自分の交渉戦略を最適化する助けになります。
交渉では、自分のポジションを明確にし、相手の状況やニーズを的確に理解することが勝利への鍵となります。そのためにも、BATNAとZOPAの概念をしっかりと押さえ、準備段階でこれらを十分に活用することが有効です。
さて、では具体的な交渉例を見ていきましょう!😊
A社購買担当者(田中さん): コスト削減を最優先に考えている。
B社営業担当者(鈴木さん): 長期的な関係構築を目指しつつ、利益率を確保したい。
<商品の納入価格をめぐる交渉>
田中:
鈴木さん、現在の契約価格ではコストが高すぎて、上層部から削減指示が出ています。他社では同じ仕様の製品をもっと安い価格で提供しているところもありますよ。
鈴木:
なるほど、田中さん。コスト削減のプレッシャーがおありなのですね。そのお話、もう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか? 他社の提案内容や、具体的なコスト削減目標について共有いただければ、こちらも何か対応できるかもしれません。
田中:
ここだけの話ですが、他社の提示価格は100万円で、品質基準はほぼ同じです。納期については御社と同等とはいきませんが、今回はコスト削減が主な課題ですので。
鈴木:
ありがとうございます。他社がその価格ですか…
現在当社の価格が115万円ですが、納期は保証されています。
品質や納期に関してはご満足いただけていると認識していますよね?
田中:
ええ、品質と納期には満足しています。
ただ申し上げた通り、やはりコスト削減が優先事項です。
鈴木:
承知しました。田中さん、ここで少し整理させてください。他社の価格が100万円であることを踏まえ、コスト削減の観点でその提案が魅力的に見えるのは理解できます。一方で、当社が提供している納期保証やサポート体制を考慮いただくと、これらが御社の業務効率に寄与している点も重要かと思います。
田中:
確かに、それは否定できませんが、コスト削減目標を達成しないと困ります。
鈴木:
そうですね。では、具体的なご提案をさせていただきます。当社として、御社のコスト削減目標に一部でも応えられるよう、今回特別に価格を110万円に調整することを検討できます。ただし、その代わりに、契約期間を現行の1年から3年に延長していただくことを条件にさせていただけませんか?
田中:
3年契約ですか。それは少し長いですね…。
鈴木:
もちろん、長期契約にはリスクがあるかと思います。ただ、これにより、価格を安定的に抑え、さらに年間のメンテナンス費用も10%割引する提案を加えたいと思います。この総合的な提案が、御社にとって他社のリスクのある提案よりも長期的に利益を生む選択肢になると考えています。
田中:
そういうことですね。… ええと、リスクや総コストを比較する必要がありますね。少し前向きに検討させていただきますが、社内調整が必要です。
鈴木:
ぜひご検討ください。また、田中さんの上層部のご要望に直接お応えできるように、具体的なデータを基に資料もお作りできますの、必要であればご相談ください。
田中:
ありがとうございます。いったんその案を上げてみます。
解説
B社営業担当者(鈴木さん)のBATNAとZOPAの活用ポイント
BATNAの認識と強調
B社のBATNAは「他社と契約する」という選択肢を持つA社に対して、品質や納期保証を差別化要素として提案。これにより、A社の代替案の弱点を間接的に示した。
ZOPAの探り出し
A社が100万円までコスト削減を求めている一方、B社が譲歩できるラインが110万円であることを明確化。これによりZOPA(100万円〜110万円)を特定。
条件交渉による合意形成
価格を下げる代わりに、長期契約と追加サービスを提案し、互いの利益が最大化する方向で交渉を進めた。
鈴木さんはZOPAを提示しなら相手の反応を探り、「お互い重なる範囲」がなければ交渉を離脱する選択肢もありましたが、多角的な価値提案で、交渉が決裂することを防ぎながら利益を確保しました。
わかりやすい一例ではありますが、このようにBATNAとZOPAを意識しながら交渉を進めることで、双方にとって有益な結果を引き出すことができます。