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誰でも使える交渉術! ストーリー#5

前回まで

武井と千田は本山自動車での交渉を終え、帰社途中に千田は武井へ「交渉の成功は信頼関係を築くことから始まる」とアドバイスしました。武井は、千田の冷静な対応に感銘を受け、自分もいつか同じようにできるようになりたいと感じます。

オフィスでの報告後、一人でエレベーターホールにいた武井は、石田部長と鉢合わせ、なんとなく思っている不安を打ち明ける。
石田は「千田も失敗を重ねて成長したのよ」と励まし、挑戦することの大切さを伝えた。

第五話

武井青は、自宅のアパートに帰るとスーツを脱ぎ、ため息をついた。今日の会議は成功だったが、心の中にはまだ少し緊張が残っている。シャワーを浴びながら、武井は千田や石田の言葉を思い返していた。「失敗を恐れずに挑戦する」「相手の信頼を得ることが大切だ」——これらの言葉が頭の中で響いている。

シャワーを終えて頭にタオルを乗せたまま冷蔵庫に向かうと、スマホに通知が来ているようだった。ビールを取り出し、スマホを覗くと美優からのメッセージが来ていた。
 美優とは大学時代からの知り合いで、社会人になってから再会し、付き合い始めて1年半になる。彼女は商社に勤めており、最近は特に忙しそうだ。
電話をかけると、1コールで美優が出た。

「ああ、青くん。 急にごめんね。」
「なに?」
「えっと、今週、大阪出張に行くことになったのよ、一泊弾丸で。金曜夜には戻るから、土曜に食事でもどうかなと思って。久しぶりに美味しいの食べに行こうよ」
「いいよ、空いてるし。どっか取っとこうか?」
「行きたいと思ってたとこあるから、私、予約入れとくよ。中華で、ちょい辛。いいよね」
「うん、じゃあ、時間とか後で送って」
「はい、りょうかーい。じゃね、また」

彼はスマホを置き、ソファに腰を下ろした。今日は仕事で本当に充実した一日だったが、土曜も美優との食事が決まって一層の充実感だ。久しぶりに楽しく過ごせる週末になりそうだ。

***

翌日、朝から会議と資料作りなど、相変わらず時間がない。
すでに夕方の時間帯で、社員たちの顔には少し疲れが見える。

武井は通りすがりに、ふっと千田の席を見る。そこには彼がいつも愛用している白地に青く”鯖”と書かれたマグカップと、やや大ぶりのメモ帳が置かれていた。千田はまだ戻っていないようだ。武井はそのメモ帳に書かれた文字に気づく。

「交渉後のフォロー、1.○○、2. XX  … 」

武井はそれを見て、はっとした。
(千田さんはとっくに次を準備しているんだ)
それが、千田が信頼を得ている理由の一つなのだろうと感じた。

その時、携帯が軽く震えた。画面を見ると、本山自動車の技術部長からのメールが届いていた。武井は一瞬、緊張したが、すぐに自分の席に戻り、PCのメールを開いた。千田さん宛だ。

「本日の会議では、貴社のご提案に感謝しています。いくつか追加で確認したい点があるため、再度お打ち合わせの機会をいただければと思います。」

武井は急いで文章の続きを読み、頭の中で整理した。『次に何を出すべきか』。武井はすぐに資料をデスクの上に広げた。

 背後から軽い足音が近づいてきた。「どうした、青?」と、千田の声が聞こえた。

「はい、千田さん。追加の打ち合わせのリクエストが来ています。すぐに対応します!」

メールが来てから対処しようと慌てている武井を見て千田はにこりと微笑んだ。千田は武井の肩を軽く叩き、真面目な声で言った。
「落ち着いて、相手の要望に的確に答えられるよう、準備しよう、な。」

千田は自分のデスクに戻り、椅子に腰を下ろした。頭の中で提案の構成を組み立てていた。
ちらりと武井を見ると、その真剣な表情に満足げな笑みを浮かべた。若手が成長する姿を見るのは、彼にとってもまた喜びだった。

その夜、オフィスの明かりが徐々に消えていく中、武井は一人、デスクに向かい続けた。千田の背中を追いかけるために、自分が何をすべきか、少しずつでも何かをするしかない。

「焦らず、挑戦し続けるんだ」と武井は自分に言い聞かせ、キーボードを叩き続けた。


武井は一通りの提案内容と、データをまとめ上げた。
(これを明日朝、千田さんに見てもらおう。案を絞って、提案書にまとめれば来週早々にも打ち合わせが設定できるだろう)

仕事を終えた武井は携帯の時計に目を落とす。21時12分。
頭はぼーっとし、PCをシャットダウンするのも億劫だった。
誰もいないオフィスで帰り支度を始めていると、スマホに美優からのメッセージが届いた。

”トラブルで大阪出張 長引きそう”

仕事なら予定は仕方ないが、少し心配になった。
なぜなら彼女は普段とても優秀なのだが、複数の問題が重なったとき、頭の中がパニックになり思考停止に陥ることがあるからだ。
何を聞いても、考えているんだかいないんだか、宙を見つめる彼女を何度見たことか。八方塞がりで、どうしていいのか、とても不安になっているかもしれない。

(アパートには22時前には着けるだろうから、その後すぐ電話しよう)

武井は ”後で電話するね” と短いメッセージを送り、会社を出て帰途を急いだ。








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