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交渉術 第28話

(この話は、武井青(メーカー勤務 5年目、27歳)が仕事を通じて交渉術を学んでいきます。)

前回までのあらすじ

武井青が率いるチームは、来週の木曜日に予定される本山自動車への「新製品開発進捗検証会議」に向けて動き出した。武井は新人3人に明確な役割を割り振る。

  • 香田信二:  実験データの解析と報告用資料作成を担当

  • 斉藤:  各部品の設計変更経緯と実験結果の関連性を整理

  • 山岸:  製品の信頼性をワイブル線図で可視化

武井は会議の目的は単なる進捗報告に留まらず、開発が適切に進んでいることを本山自動車に納得させ、信頼を深めることだと説明。新人たちは意欲的に応じ、6日間という限られた時間で準備に取り組むになった。
武井の指示の下、新しいチームが動き始めた。


第28話:協力の輪

武井は、今後の実験計画について話し合うため、実験部に向かっていた。
残された、香田信二、斉藤陸、山岸明日香の3人は、自席で準備を始めていた。
新人3人は全員同期入社組だが、大学院修士の山岸明日香は二人より年上で、職位も一つ上だ。

山岸が香田に近づき、モニターに表示されたデータを指しながら尋ねた。

「香田くん、この信頼性試験のデータって、どこに保存されてるの?」

「あ、これは技術共有フォルダの『信頼性試験_最新1』っていうところにあるよ。ここだね。」

「… 最新1って、まさか最新2とか3とか無いでしょうね?」

「無いよ..1回全部見たから。で、それ以来このフォルダは僕しか触ってないから、これが最新」香田が答える。

「大学生のデータベースよりヤバいよ、間違えるよね」
山岸は眉を顰めながら言った。

「早速、理想と現実のギャップだ。 会社ってところはくだらない仕事がいっぱいあるって兄貴が言ってた」斉藤が茶化すように言った。

山岸は香田の画面を覗き込み、ファイルの場所とデータを確認しながら斎藤に聞いた。「斉藤くんのお兄さんはどこ勤めてるの?」

「五応商事。 俺の5つ上だから武井さんと同じくらいかな。」

「これこれ」香田が山岸にデータを示した。

「これね… 思ったよりデータ少ないわね」

「この下にも入ってるよ」

「ああ、オーケー、OK 」
山岸は早速自席で作業を始めた。

斉藤は2つのモニターと、大量の図面と格闘していた。
「実験結果と設計変更の関連性か…。ここのパラメータを変更した理由って、このテスト結果に基づいてるんだよな…。香田くんさあ、ちょっといい?」

「うん、何?」香田が振り返る。

「この実験レポートを踏まえて設計が変えられているんだけど…  図面の発行日が先なんだよね。これでいいのかな」

「ああ、それ大丈夫。 実験の速報が先に出てるんだけど、その情報が図面に載ってないんだ。正式な実験レポートが後に出たから」
香田はすばやくファイルを探し、速報レポートを斉藤に示した。

「さすが完璧に把握してるな!」斉藤は笑顔を浮かべて続けた。「いずれにしても、この速報は正式レポートに加えて改訂発行すべきだね。そうするわ」

香田は少し言い訳するように「…. これ、グチャグチャに見えるかもしれないけど、これでも武井さんと僕で相当整理したんだ。少し前に千田さんの直属の上司が急に辞めちゃったらしくて、半年ぐらいはだいぶ混乱してたみたい…って、武井さんの同期の三渕さんが言ってた」

「武井さんも大変だったんだな。まあ、今は俺らがいるし。」斎藤が呼応する。

会話が弾む中で

仕事を進めるうちに、話題は自然と研修時代のことへと移っていった。

「そういえば、みんな研修中はどこに配属されてた?」斉藤が設計図を整理しながら聞いた。

「僕は実験部だった」香田が答える。
「現場の凄さを実感したよ。実験指示書に書いてあることなんて、仕事全体の2割くらい。あとは現場が全部考える。」

「へえ、いい経験ね」山岸が言った。

「私は品質管理部だった。すごく緻密に検査していたんだけど、自分の中でデファクトスタンダードができたと思う。ここまでやるのが普通なんだって」

「俺は工場だった、愛知のね」斉藤が苦笑する。

「生産設備は最新だし、工場にいる時は良かったんだけど、愛知工場の寮に3ヶ月が、慣れなくてね」

「ええ、なんで?」香田が少し驚く。

「いやー、愛知も嫌じゃないし。 ただ、あの工場の周りだけ本当に何にもないの。工場と寮の食堂と、たまに近くのスナック。 工場、寮、たまにスナックの3箇所をグルグル回ってただけ。」

「もうちょっとあるでしょ、工場の人たちだって生活あるでしょうに」
山岸が言った。

「いやあ、工場の皆さんは車で来てるから。彼らの自宅辺りはもちろん賑やかで、商店街もあればショッピングモールもコンビニも薬局も、なんでもあるよ。けど、寮が辺ぴな場所すぎて … 工場には近いんだけどね。」

「そうだったんだ。ご苦労様」
香田と山岸が笑いながら斎藤を労った。

時折、気楽な会話を交えながら、3人は着々と作業を進めていった。

仲間としての絆

「よし、これでほとんど整理できたな」
斉藤が脱力して椅子の背もたれに寄りかかり、呆然とモニターを遠目に見ながら言った。「このペースなら、なんとか間に合いそうだ」

「結局、なにかの問題が起こってギリギリになるのはいつもの事だけどね。まあ、今のところ若干前倒しできてる感じかな」香田が言い、「クラウドに『本山進捗会議資料』でフォルダー作ったから、入れといて。家からでも見れるよ」と付け加えた。

「見ない、見ない。 もー、今日はお腹いっぱいだ」斎藤が呼応して叫んだ。

時計を見ると、午後9時を少し回っていた。
3人とも疲れてはいたが、今日のところの達成感に充足していた。


この話の中で、交渉の準備や業務上のコミュニケーションに関して、良かった点は、以下のように挙げることができます。

交渉の準備に関する点

  1. データ管理の明確化

    • 香田が「信頼性試験の最新データの保存場所」を正確に把握し、迅速に提示したことで、業務のスムーズな進行につながった。

    • 斉藤が「実験結果と設計変更の整合性」に疑問を持ち、香田が「速報と正式レポートの関係」を即座に説明した点も、交渉時のデータ確認において有効だった。

  2. 情報共有の積極性

    • 香田が「データ整理の背景」や「過去の混乱」を説明することで、現在の情報の信頼性を補強し、チーム全体の理解を深めた。

    • 斉藤が「実験結果と設計変更の関連性」について指摘し、改善提案を行うなど、チーム内でのデータ整理に貢献した。

業務上のコミュニケーションの良かった点

  1. 相互協力と柔軟な対応

    • 山岸が「データの保存方法」に対して改善の余地を示唆し、香田の説明を確認しながら作業を進めた。

    • 斉藤が「設計変更の時系列の矛盾」に気付き、香田と協力して正しい情報を整理した。

  2. 自然な情報共有と信頼の醸成

    • 研修時代の話を交えることで、互いのバックグラウンドを理解し、業務上の信頼関係が強化された。

    • 香田が「クラウドに資料を保存した」と伝え、どこからでもアクセス可能にする工夫をした。

  3. リラックスした雰囲気の中での効率的な仕事

    • 仕事の合間に雑談を交えることで、ストレスを軽減しながらも、業務の進行に支障が出ることなく協力し合っていた。

    • 夜遅くまでの作業にもかかわらず、チーム全体が前向きな姿勢を維持し、達成感を共有した。

このように、データの正確な管理、情報共有の徹底、協力的な姿勢が、交渉準備や業務遂行において重要な要素となっていたことが分かります。


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