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交渉:3つの基本と その効果 (その2)

さて、前回に続き、交渉の基本3要件についてのお話です。
「3つの基本」とは次のものでした。

今回は、この中の2番目、「明確な表現を介した論理的思考」について述べていこうと思います。

(その1 「双方の満足度を高めるための問題解決手法」 はこちら!)


さて、「論理思考」を駆使した交渉準備は、順を追って論理を組み立てるので実はそれほど難しくありません。
『論理思考』と聞いて、「難しそう…」😓と尻込みする必要は全くありません。特に後半に説明する「ピラミッドストラクチャー」などのフレームワークを使うことで、むしろ思考は整理され、話す内容も相手にわかりやすくなります。それではスタートしましょう!✨

交渉が「明瞭な表現を介した論理的思考」を必要とする理由は、交渉が「相手との意思疎通を通じて合意を形成するプロセス」だからです。
論理的な主張と明確な表現があれば、自分の意図を正確に伝えることができ、誤解や不信感を招かないために有効です。以下、みていきましょう。



1. 論理的思考の必要性

論理的思考は、交渉において次の役割を果たします。

問題の本質を理解する

  • 論理的に物事を考えることで、交渉の中心となる問題を明確にし、それに適した解決策を提案できます。

  • たとえば、価格交渉で単に「高い」と主張するのではなく、「市場価格と比較して(など、○○を根拠として)コストが高いため、他の選択肢を検討している」と説明することで、相手も状況を理解しやすくなります。

根拠に基づく説得

  • 自分の主張を正当化するためには、事実やデータに基づいた論理的な説明が欠かせません。これにより、相手にとって説得力のある提案となり、交渉の成功率が高まります。

  • 例: 「この仕様変更により、完成品の信頼性が向上し、結果的にクレーム対応コストの削減が見込まれる」と具体的な効果を示す。もちろん、信頼性向上を示すデータを示す必要があります。

相手の視点を考慮した提案

  • 論理的思考は、相手のニーズや背景を考慮した提案を行う際にも重要です。相手の視点に立った分析が、合意を形成するための土台を築きます。


2. 明瞭な表現の重要性

交渉では、論理的な考えを相手に伝えるための「表現」が不可欠です。不明瞭な表現では相手に誤解を与える可能性があり、交渉の進行を妨げかねません。

簡潔かつ正確な表現

  • 複雑な内容であっても、簡潔で正確に伝えることで、相手にとって理解しやすいコミュニケーションが可能になります。

  • 例: 長々と説明する代わりに、「このプランでは、コストを15%削減しつつ、製品の品質を維持できます」と明確に要点を伝える。

誤解を防ぐ表現

  • 曖昧な言葉や抽象的な表現を避け、具体的かつ具体例を用いた説明が、双方の理解を深めます。

  • 例: 「柔軟に対応します」という曖昧な言葉を使う代わりに、「3日以内に詳細な計画を提出します」と具体的に述べる。

相手の感情への配慮

  • 明瞭な表現は、交渉の緊張感を和らげるためにも重要です。あえて攻撃的で感情的な表現を用いる必要はなく、建設的な対話を促進しましょう。


3. 論理的思考と明瞭な表現の組み合わせ

交渉において、論理的思考と明瞭な表現は相互補完的な役割を果たします。たとえば、交渉中に以下のようなアプローチが必要です。

ピラミッド型のプレゼンテーション

  • 「結論 → 根拠 → 詳細」というピラミッド型の構造で話を展開することで、相手は話の全体像を把握しやすくなります。

  • 例: 「この提案は双方に利益をもたらすものです。その理由は、(根拠1)市場データ、(根拠2)コスト分析に基づいています。」

質問と回答の明確化

  • 相手の質問に的確に答えることで、信頼感を築けます。

  • 例: 「なぜこの価格が必要なのか?」という質問に対し、「材料費が過去6カ月で20%上昇しているため、現状では価格を据え置くことが困難です」と具体的に回答。

合意を形成するためのステップ

  • 論理的な主張と明確な表現を組み合わせ、段階的に相手を納得させるプロセスを進めます。


交渉では、論理的思考による問題の明確化と解決策の提示、そしてそれを相手に正確に伝えるための明瞭な表現が不可欠です。この2つが揃うことで、相手は提案の妥当性を理解しやすくなり、合意形成がスムーズに進みます。論理と表現力の両立こそが、成功する交渉の基盤です。

その中でも特に実践的な手法として応用できるのが「ピラミッドストラクチャー」を利用した論理構築です。それについて少し詳しく見ていきましょう。

<ピラミッドストラクチャーを活用した論理的思考>

交渉において、主張を明確かつ説得力を持たせるためには、ピラミッドストラクチャーを使った論旨の組み立てが非常に有効です。この手法では、主張(結論)をピラミッドの頂点に置き、それを支える論拠(中間レベル)、さらにその下に根拠(事実やデータ)を配置します。以下、この構造を詳しく説明します。


1) ピラミッドストラクチャーの基本構造

(1) 頂点:主張

  • 主張は、交渉において自分が実現したい最終的なゴールや提案です。これは簡潔かつ一貫性のある形で提示されるべきです。

    • 例: 「この価格で契約することが双方にとって最善の選択です。」

(2) 中間層:論拠

  • 主張を支える主要な理由や説明です。これを3つ程度に絞ることで、論旨が明確になり、効率的に交渉を進められます。

    • 例:

      1. 「この価格は市場価格と整合性があります。」

      2. 「我々の提案はコストパフォーマンスを向上させます。」

      3. 「契約を早期に締結することで、納期のリスクが減少します。」

(3) 下層:根拠

  • 論拠を裏付ける具体的なデータや事実を提示します。これには、信頼性の高い1次情報や2次情報を使用することが重要です。

    • 例:

      • 1次情報: 「最新の市場調査によると、競合他社の平均価格はXX円です。」

      • 2次情報: 「業界レポート(XYZ社発行)によると、この価格設定は妥当です。」


2) ピラミッドストラクチャーの実践例

主張

「我々の提案する価格は最適な選択肢です。」

論拠

  1. 「市場価格と整合性があります。」

  2. 「コストパフォーマンスを向上させます。」

  3. 「納期のリスクを軽減します。」

根拠

  • 論拠1: 「市場価格と整合性があります」

    • 根拠: 「競合他社の平均価格はXX円(1次情報)。我々の価格はこれと一致しています。」

  • 論拠2: 「コストパフォーマンスを向上させます」

    • 根拠: 「我々の製品は、他社と比較して耐用年数が20%長いです(2次情報:製品評価レポート)。」

  • 論拠3: 「納期のリスクを軽減します」

    • 根拠: 「製品の在庫を十分に確保しており、XX日以内に出荷可能です(1次情報:社内在庫データ)。」


3) ピラミッドストラクチャーのメリット

(1) 明確な論旨

  • 主張→論拠→根拠という構造により、相手が話の全体像を容易に把握でき、説得力が高まります。

(2) 効率性

  • 論拠を3つに絞ることで、冗長な説明を避け、交渉をスピーディーに進めることができます。

(3) 説得力の強化

  • 論拠を裏付ける根拠に信頼性の高い情報を使用することで、相手に「この提案は合理的である」と納得させることが可能です。


4) 注意点

  • 論拠を絞る:
    あまり多くの論拠を持ち出すと、話が複雑になり、相手が要点を見失う可能性があります。基本的に、論拠は3つ、としましょう。1つでは相手の出方によっては逃げ場がなくなりますし、5つでは多すぎて相手は理解しきれませんので、逆に「よくわからない」と言われてしまいます。基本的には3つです。

  • 情報の信頼性:
    根拠に用いるデータが信頼性に欠ける場合、逆効果となる可能性があるため、1次情報または信頼できる2次情報を使用することが必須です。2次情報の場合、その情報ソースをしっかり示すことが重要になります。

  • 柔軟性:
    ピラミッドストラクチャーは基本形として使いつつ、相手の反応や質問に応じて柔軟に構造を修正する能力も求められます。


ピラミッドストラクチャーを活用することで、交渉の論旨を整理し、説得力のある主張を展開することができます。
この手法により、効率的かつ効果的に相手を納得させ、合意形成に至る可能性を高めることができます。



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