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交渉術 第26話

(入社5年目、27歳の武井青は、メーカーに勤める技術者。 日々の仕事の中で、主に「交渉戦略」について学んでいきます)

前回までのあらすじ

前岡工業の技術部では、武井と香田が協力して技術サポートを成功させ、部の協力体制の強みが再確認された。その中で、石田紗希子は千田を「暫定的な課長(acting Section Manager)」に任命した。
また、千田のチームに新たに新人2名が加わることも告げられる。

石田部長は、千田の部下、武井の育成についても言及し、千田は武井の育成方針について述べた。千田自身、昨年の結婚や、近々の管理職への昇進といった転機を迎え、あらためて責任を感じていた。


第26話:新たなチームの幕開け

翌朝、武井青はコーヒーを片手に、自分のデスクでメールを確認していた。すると、千田からメッセージが届いた。
「本日10時 会議室B」

議題は「連絡会」としか記されていなかった。

香田信二が自席に戻ってきた。
「シンジ、千田さんから招集だ。10時。メール来てるよ」武井が声をかけた。

「はい、見ました …内容書いてないですね。」
香田がPC画面を覗き込みながら答えた。

「何だろうな。」武井も聞いていないので、内容は知らない。

雑務を片付けていると、あっという間に10時に近づいた。

武井は隣の席の香田に声をかけた。「そろそろ行くか」

「はい」

会議室Bは、下のフロアだ。サンダル履きの武井は、階段をパタパタと甲田の先を行く。

「武井さん、サンダル。 危ないですよ。 一応、ルールでダメですから」

二人は会議室Bのドアの前に着いた。
中に入ると、12人ほどが座れる長テーブルの向こう側には、すでに千田と、その前に新人らしき若い男女が座っていた。

千田が手を上げて迎え入れる。「おう、お疲れ様。まあ、座ってくれ。」

武井と香田は千田の隣に、新人二人と対面する形で座った。
すると、千田が二人を紹介し始めた。

「彼は、斉藤陸(りく)くん。工学部を今年卒業したばかりだ。」

斉藤はにこやかに立ち上がり、少し照れくさそうに挨拶をした。
「斉藤陸です。よろしくお願いします!まだまだ勉強中ですが、全力で頑張ります」

「で、もう一人は山岸明日香くん。大学院で航空工学を専攻してた。」

山岸は軽く会釈をしながら落ち着いたトーンで言った。
「山岸明日香です。皆さんと一緒に働けるのを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。」

千田が続けて武井と香田を二人に紹介する。

「この二人は武井青と香田信二。仕事の進め方や技術について困ったことがあれば、まずはこの二人に相談してくれ。」

武井は笑顔を見せながら口を開いた。

「武井青です。入社5年目です。設計、実験、品質と一通りこなしてきたので、何でも気軽に声をかけてください。」

香田もやや緊張しながら、少しぎこちなく自己紹介する。
「香田信二です。みなさんと同じ入社1年目です。今は設計やデータ解析を主に担当しています。研修では実験部にしばらくいました。よろしくお願いします。」

「実験部ですか。僕は、愛知の工場で研修してました」斉藤が明るい調子で言った。

千田が改めて全員を見回しながら話を切り出した。

「これからは、この5人でチームとしてやっていくことになる。お客様からの要望や案件を全力でサポートしていくぞ。」

武井が微笑みながら言った。
「千田さんは課長職に上がるということですね。」すでに話は広まっていた。

「まあ、肩書きは対外的にもやりやすくなるが、より大事なのは、我々でしっかりお客様を支えていけるかどうかだ。そこを忘れないようにな。」

斉藤が勢いよく「はい!」と返事をしたので、武井と香田は思わず彼の顔を見た。

武井もチームが大きく賑やかになり、仕事へのモチベーションが上がってくるのを感じていた。

ただ、こうも感じていた。
千田さんから交渉戦略について教わってきたが、「交渉は準備が9割」と教わる中で、準備段階での戦略の構築や共有、役割分担については、人数が多ければ、より複雑性が増してくる。

今、石田部長率いる技術部は、今は確か55-56人くらいか。
配下には17-8名のチームが3つと、我々、千田さんのチームだ。
千田チームで扱い始めた新開発製品のチームは、4つ目の組織として早晩同じくらいの規模になるだろう。
千田さんが課長になれば普段の細々としたことは自分が頼りにされるだろうから、それが自分にできるかどうか、少し不安もあった。



武井が今後注意すべき点を交渉戦略の視点から整理すると、以下のようなポイントが挙げられます。


1. チーム内での役割分担の明確化

  • 課題: チームが増員されたことで、各メンバーの得意分野や特性を把握し、適切な役割を割り振る必要がある。特に交渉準備において、誰がどの情報を収集・分析するか、誰がどのシナリオに備えるかを明確にすることが重要。

  • 対応策:

    • メンバーの強みと弱みを把握するために、日常業務を通じて観察・コミュニケーションを深める。

    • 定期的に役割分担を見直し、柔軟に調整する。


2. 情報共有と意思統一

  • 課題: 準備段階での戦略共有が曖昧だと、交渉本番で不整合やミスコミュニケーションが生じる可能性がある。新しいメンバーはまだ経験が浅く、意図のすれ違いが起きやすい。

  • 対応策:

    • チームミーティングを通じて、戦略やゴールを明確に共有する。

    • 質問しやすい雰囲気を作り、メンバー全員の理解を確認する。

    • 必要に応じてシミュレーションを行い、交渉の流れを全員で確認する。


3. 千田の補佐役としての意識強化

  • 課題: 千田が課長となることで、武井は現場のリーダーとして、細かな調整や部下の育成を求められる。準備段階だけでなく、進行中のトラブル対応や、メンバーのフォローにも責任が生じる。

  • 対応策:

    • 千田の意図や判断基準を理解し、彼の代わりに意思決定を下せるよう準備する。

    • 優先順位をつけてタスクを整理し、過剰に抱え込みすぎないようにする。

    • 部下や新メンバーに対して適切なフィードバックを行い、成長をサポートする。


4. チームの一体感の構築

  • 課題: 新メンバーが加わることで、チーム内の人間関係やコミュニケーションが課題となる。新しい環境に不慣れな斉藤や山岸を、早期にチームに溶け込ませる必要がある。

  • 対応策:

    • 定期的なチームビルディングの場を設ける。

    • 小さな成功体験を積ませることで、メンバーに自信を持たせる。

    • 各メンバーの意見を尊重し、全員が貢献できる場を作る。


5. 自分自身の準備力の向上

  • 課題: 武井自身が新しい責任に対応するために、準備力と戦略構築のスキルをさらに磨く必要がある。特に交渉戦略の複雑性が増す中で、リーダーとしての資質が問われる場面が増える。

  • 対応策:

    • 千田や他の上司から引き続き学び、具体的な交渉戦略のスキルを実践に移す。

    • 過去の交渉事例を振り返り、成功・失敗の要因を分析する。

    • 時間管理を徹底し、準備段階での優先事項に集中する。



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